「今日はサンドイッチにしよーっと、」
「俺も。」
「じゃあ、ハンバーガー。」

昼食時で当たり前の如く生徒で賑わうスクールカフェ。
注文するのも一苦労で、やっと来た順番でこの有様。本当に私の後ろの人たちには申し訳ないと思う。
それでもアイザックと同じものを食べると言うのがまあまあ嫌だった。


「なんで同じじゃ嫌なんだよ。」
「え、だってコイツら何一緒のもん食ってんだよって思われるの嫌じゃない。」

席についてやっと一息つけたと思ったらそんな一言だ。

「見せつければいいだろう。」

1ヶ月前、アイザックは私に付き合えと言った。因みにそれがアイザックと話した最初の言葉だった。密かに憧れていたけど、好きだったけど!
悩んだりときめたりしたかったが、私にはうんと言う以外の選択肢がなかった。まさに俺様主義。

「そんな事したらその日から私の背後が危うくなるわ。」

アイザックは人気がある。一緒にいるだけでも周りの視線が冷たいのに、ランチまで同じものを食べていたら名簿から私の名前が消える可能性があるくらい人気がある。
とまあ、そんなのは言い訳で、私は感情を表に出すのが苦手だから、なんとなく恥ずかしかった。
男の人と付き合うなんて初めてで、大切にされるなんてことに慣れていないのだ。



「帰るぞ」

そして、放課後。いつも一緒に帰る。
だけど差し伸べられた手を繋いだことは一度もない。

「うん…、」

アイザックなら女の子なんて選び放題なのに、なんで私なんかを選らんだのか不思議だ。
そう思いながら、アイザックが開けてくれたリムジンに素直に乗った。
しかし、私はリムジンが苦手だった。特有の静かで優雅な走りは私たちの無言を浮きだたせる。そんな空気の中では広いリムジンも窮屈で息苦しい。
私は気まずくなって、窓から見える流れる風景に目をやった。

「あの猫は元気か?」
「…見てたの?」

車が止まるとアイザックは静かに口を開いた。
あれは一ヶ月くらい前…アイザックと付き合うちょっと前、私はダンボールに入れられ、捨てられていた猫を拾った。
そして、車が止まったは猫を拾った場所だった。

「あの時、first nameの偽善に反吐がでそうだった。」
「ひどい……。」
「まあ、聞けって。俺は人を大切にするのに慣れてないから、そう言うのがなんかむず痒いって言うか…でもいいなって思ったんだ。」

目を逸らして恥ずかしそうに言うアイザックに共感出来た。
私は大切にされるのに慣れてなくて、アイザックは大切にするのに慣れてなくて、一緒にいれば程よい関係に自然となれる気がした。

「じゃあ、こ、小指から…お願いします…」

私は差し出された小指をそっと握った。
アイザックの指は男の子なのに細くて、大切に大切に握った。

「恥ずかしいね、アイザック」
「そうか?」
「猫は好き?」
「嫌いじゃないな、」
「じゃあ、今度会いにきてね。アイって名付けたの。」
「いいのか?」
「え?」
「first nameんち、行っていいのか?」
「いいよ…お母さんだってアイだっているし!」
「別にそういう訳で言った訳じゃ、」

気まずくなって、目を逸らして、また窺うように目線を向けたらアイザックと目があってしまった。


「と…と言うか、アイとか捻りがないな」
「いいじゃん!」

恥ずかしがったり、誤魔化してみたり、だけど手を繋いだり、多分これからそんなことやそれより先の事がたくさんあるに違いない。
私は距離が少しずつ縮まっていくのが分かった。





捨て猫に貴方の名前をつけた
にゃー