私はこれから栄光を掴む者とは
誰かを見極めて、利用されないようにしないといけない。

そして生まれ変わりとして何をすべきなのかも。

オールドラントはどう救えば良いのかも。
大変だけれど、
私は私の世界の為に成し遂げてみせるわ。



師との再会



街道を進んでいたルーク一行は、ついに国境にあるカイツールに到着した。

「あれ、アニスじゃねぇか?」

「証明書も旅券もなくしちゃったんですぅ。通して下さい、お願いしますぅ」

「残念ですが、お通しできません」

「…ふみゅぅー…。…月夜ばかりと思うなよ」

「アニス。ルークに聞こえちゃいますよ」


そして国境付近でマルクト兵に媚びを売るアニスの姿を見付けるのである。
アニスはドスのきいた声から一変し可愛らしい声でルークに抱き着いていた。

「ルーク様、ご無事で何よりでした!もう心配してましたー!」

「こっちも心配してたぜ。魔物と戦ってタルタロスから墜落したって?」


「そうなんです…。アニス、ちょっと怖かった…。…てへへ」

「そうですよね。『ヤローてめーぶっ殺す!』って悲鳴あげてましたものね」


アニスの真似をしているのか、少しばかりドスのきいた声をあげて言うイオン。
何故だろうか、彼が腹黒く見えた、と後に某公爵家使用人は語った。

「ところで、どうやって検問所を越えますか?私もルークも旅券がありません」

ティアがそう言った瞬間、赤髪の青年がルークに向けて攻撃を仕掛ける。
避け方が多少なりとも不様だったがなんとか避けたルークは青年を見ようとするも目の前には彼が追い求めた師の背中。

「退け、アッシュ!私はお前に、こんな命令をくだした覚えはない。退け!」

渋々だがアッシュが去った後もティアとヴァンの間に一悶着あったが、ヴァンはそれを誤解だと言い宿へ向かおうとするもジェイドの腕の中のメアリーを見た。

「彼女は…?」

「えぇ、少し障気を吸っていまして…。私は彼女を部屋まで連れて行ってからそちらに向かいますがよろしいですか?」

「えぇ、構いません。」

「ありがとうございます。」

ジェイドと少しばかり会話をしヴァンは今度こそ宿へ向かう。
そんな彼の口元は三日月形に歪んでいた。







ぱちりと目を開ければ目の前にジェイドの顔。


「!?」

「おや、起きてしまいましたか」

「な、なに…?」

「いえ、中々メアリーが目を覚まさないので口移しで薬を飲ませようかと思いまして…」

「く、口移し…!?」

「はい」


顔に熱が集まる私に対して、音符が語尾に付きそうな程ジェイドは愉快そうに笑う。
あれ、ね。
これは、つまり……


「からかったわね…?」

「面白かったので、つい」


クスクスと笑うジェイドに私は少しだけ怒った振りをすれば彼は笑いながらだけど謝ってくれた。


「…もう、仕方ないわね。………それより、皆は…?」

「あぁ、それでしたらヴァン謡将と一緒に隣の部屋にいます。私はメアリーを部屋に連れてから行く予定でしたが…」


「少しはゆっくりしよう、って魂胆だったのかしら?」


「…………。まぁ、そうですね。」



はぁ、とあからさまな溜息をついてジェイドは眼鏡のブリッジを押し上げる。
違ったのかしら?それとも図星?



「メアリーはどうしますか?」

「え?」

「ヴァン謡将の所へ行きますか?」

「……いえ、少し、休むわ。そのヴァン謡将には謝っておいて貰える?体調が優れないからって…」


「わかりました。では大人しくしていてくださいね。」


ジェイドが出て行って静寂が部屋に訪れる。
ヴァン謡将とやらには申し訳ないけど、今は挨拶より、ユリアの預言やセレネについて……私の事について考えたい。



ユリアには妹がいて、その妹はセレネ。
そしてセレネは私の前世…。
生まれ変わりって事はそうゆう事よね…。
ユリアの親族ということは、私も…ティアみたいに譜歌を扱えるのかしら?
意味と英知…象徴もさっき預言と一緒に頭に浮かんだ。理解も、出来た。
ただ、譜歌のこと理解しても私がユリアの血縁でなければ扱えないはず。


「―――…外、行って試してみましょうか…。」


ジェイドには悪いけれど、そっと部屋を抜け出して外に出る。



手近な魔物…チュンチュンで良いわね。
チュンチュンを相手にして譜歌を口ずさむ。
上手くいけば、チュンチュンは眠りにつくはず。


「―――…深淵へと誘う旋律…トゥエ レィ ズェ クロァ リュオ トゥエ ズェ…」

唄い終われば紫色の、闇の音素が集結してチュンチュンは地面に落ちた。
つまり、成功。


「…今のはユリアの譜歌か?」

「!」

後ろを振り返ればマロンペーストの髪に神託の盾騎士団の服、髭を生やした男性が立っていた。


「貴殿が、マルクトの扇剣の姫君と名高いメアリー・リー大将か?」


「……貴方はヴァン謡将…?皆と話しているのでは…?」

「終わって外の空気を吸おうと思ったら、声が聞こえたものでな。」

「………」

「何故ユリアの譜歌を貴殿が知っている?」

「―――…それは……」


殺気の篭った射ぬかれてしまいそうな程に鋭い視線。
どうするべきだろう。
正直に、私はユリアの妹の生まれ変わりなんです、なんて言えるわけない。


「メアリー!」

「ジェイド…!」

「部屋で大人しくしてなさいと言ったでしょう。」

「ごめんなさい…。えーと…すみません、ヴァン謡将、失礼、します。」

「………いえ。今度、是非、ゆっくり話を。」

ジェイドの傍まで駆け寄って、ちらりと後ろを見れば、怖いくらいの笑顔がこちらを見てる。
あぁ…どうしよう…。
彼は、きっとまだ逢ってはいけない人だった。
でも、今は、それよりも隣でニコニコした微笑みを浮かべているジェイドをどうにかしないといけないわね。


〈 To be continued 〉

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