「姉様!」
「んー…」
「姉様、起きて!」
緑の髪の少年がゆさゆさとベッドに横たわる女性の身体を揺らす。
すると女性はゆっくりと身体を起こして微笑んだ。
とある日常の風景
「―――…おはよう、ソレイユ」
「おはよう、姉様」
二人は日課の朝の挨拶であるキスを頬に交わす。
挨拶が済むと ソレイユは部屋を出て次にジェイドの部屋に行き、メアリーは 緩慢な動作で私服に身を包んで行く。
今日は珍しくメアリーもジェイドも非番。
その為か少しばかり遅い朝。
メアリーは慌ただしく朝食の準備をする必要もない。ソレイユがパンを焼いて珈琲を用意してくれているのだ。
「ふふ、良い弟を持ったわ」
クスクスと笑いながら一人呟く。
勿論 ソレイユは本当の弟ではないのだが、今では本当の弟なんじゃないかとメアリーは錯覚してしまうくらいにソレイユはメアリーを理解し、メアリーもソレイユを理解している。
「姉様ー??」
「あ、ごめんなさい、今行くわ」
あまりにメアリーが来るのが遅かったのかソレイユがひょっこりと顔をだした。
苦笑いを零してリビングに二人で行けば既にジェイドは珈琲を飲んで優雅に脚を組んで新聞を読んでいた。
「おはよう、ジェイド」
「おはようございます、メアリー。随分ゆっくりした着替えでしたね??歳ですか??」
「あら、まだまだ若いつもりよ?ジェイドよりはね。」
「おや…言ってくれますね…」
「事実よ。昔は私が年上だったけど、今はジェイドの方が年上なんだから」
くすり、笑いながら席につく。
ジェイドが新聞を畳んで何か言いたいような視線を送ってきたけれど、ソレイユの「いただきます」という声に掻き消された。
「姉様、ジャムどうする??」
「んー……今日はアップルかしら…?」
「私はイチゴでお願いします♪」
「はい、姉様。ジェイドは自分で取りなよ、近いんだからさ。」
「酷いですねぇ…」
メアリーにジャムを渡しながらソレイユは冷たくジェイドをあしらう。
そんなソレイユにジェイドは笑いながら肩を竦めてから 年寄りは労るものですよ、といつもの台詞を言った。
…二人は仲が悪いのかしら?
いつもいつもこうやって軽い言い争いをして少しの間睨み合う。
「仲良くね?」
「仲良しですよ、私達は」
「そうだよ、姉様。仲良しだよね、僕とジェイドは。」
「……そう…?」
わざとらしく微笑む二人。
気にしてても仕方ないし…
本人達は仲良しだって言ってるんだし、大丈夫よね。
「だいたい、貴方は私に対する態度とメアリーに対する態度が違い過ぎますよ」
「えー、姉様は姉様だし、ジェイドはジェイド。同じ態度なんて絶対!!有り得ない。」
「絶対を強調し過ぎではありませんか?」
「そんな事ないよ」
そんなメアリーの考えを知ってか知らずか二人は今だに言い争いを続けている。
この場合ジェイドが大人気ないというべきだろうか、ソレイユが生意気というべきか。
「―――…二人共楽しそうね」
「え?」
「楽しそう、ですか?」
「ふふ、えぇ、楽しそう」
「………そんな事はありませんが…」
「姉様がそう言うなら…いっか」
「さ、二人共!折角だし、出掛けましょ♪」
何だかんだ言っても、二人は仲良しで、そんな二人を見て穏やかに微笑むメアリーであった。