昨日の夜、
戻ってきたルークは自分が泥棒と勘違いされた事がそうとうご立腹なようで 犯人であるチーグルを捕まえると豪語して眠りについた。
犯人探し
というわけで、今日。
メアリーは一人でチーグルの森に来ていた。
二度目のチーグルの森であるため一応は聖獣チーグルの住処も知っていてルーク達が来るまえに先回りをしたのだ。
「…ライガクイーン相手にどうするのかしら…お手並み拝見ね…」
岩に腰掛け空を見上げる。
目が眩む程青い空。
「交渉が決裂しても上手くいっても…きっとライガクイーンを殺さなくちゃ、いけなくなる……それだけは、避けたい。」
でも、必要ならやむを得ない。
「みゅ、ここですのー」
「あの岩?」
「はいですの!」
「あら?あれは……メアリー!?」
「!あ、ティアとルーク!やっと来たー!」
軽やかに地面に着地して二人を見たあとで、後ろにいるイオンに目を向けた。
イオンは驚いたように目を開き口をぽかんと開いている。
「初めまして!貴方は、導師様ですね!」
ぎゅっと手を握り目配せすればイオンはメアリーの言いたい事に気付いたのか、初めましてと手を握り返してくれた。
「よし、行くぞ!」
「ミュウ、通訳を頼みますよ」
「はいですの!」
「この奥、だね…」
一歩、足を踏み入れるとたちまちライガクイーンの咆哮が狭い穴蔵に響く。
「ミュウ、ライガクイーンは何て?」
「卵が孵化するところだから、来るなって言ってるですの!」
「まずい…卵が孵れば産まれた仔たちは街を襲います!」
そう、ライガの仔供は人を好むから。
卵が孵ればまず、襲われるのはエンゲーブ。
だけど…吠えつづけるライガクイーンの様子からして…
「私達が餌になっちゃう!!」
交渉を頼まれたミュウもクイーンに近付く前に咆哮により弾き返された。
これが意味するのは……
「交渉決裂のようね」
「導師様、おさがりください!」
「お、おい……ここで戦ったら卵が割れちまうんじゃ…」
「残酷なようだけど…そのほうが好都合よ…」
イオン様をさがらせて、二人のもとに戻ってくれば 戦闘が始まる一歩手前。
「ティア、私も戦うよ…!」
「メアリー、戦えるの…?」
「少し、なら…」
「なら、お願い!」
「く、来るぞ!」
ルークの声によって戦闘が始まった。
「深淵へと誘う旋律…」
「双牙斬!!」
「ピコハン!」
ティアの援護、ルークの攻撃。
加減して当たらないように仕向けた私の攻撃。
どれもクイーンには効いていない。
「…かなりの強さよ…!」
「くそっ…」
二人の辛そうな声…。
あぁ、どうしようかしら。
このままだと二人も怪我をしてしまう。
……クイーンは出来るなら、助けたい。
だけど……
「やれやれ、見ていられませんねぇ」
悩んでいるところにジェイドの声。
…きっと彼なら、クイーンを…殺してしまう…。
彼が殺すくらいなら、私が……
「助けて差し上げましょう」
「させないっ!!」
業を背負う。
「サンダーブレード!」
メアリーがライガクイーンの前に立ちはだかり花弁によるドーム状の防護壁を発動するのとジェイドの譜術が発動するのは、ほぼ同時だった。
「!」
誰しもが息をのむ。
ティアやルークはあのか弱い女性がクイーンを庇った事に。
ジェイドはメアリーを傷つけてしまったかもしれない事に。
防護壁の中、メアリーと無傷のライガクイーンがいた。
中は皆には見えない
「ライガクイーン…、私が貴女を殺すわ…。」
庇っておいて殺すなんて馬鹿な話よね。
だけど…私がいるならば、ジェイドや、彼等にこの業を背負わす必要はない。
「さよなら、ライガクイーン。どうか安らかに……」
寸分違わず剣をライガクイーンの心臓へ突き刺す。
ゆっくりと光の粒子になり消えていく。
『…万物を司る女神よ………娘に……アリエッタに、どうか…卵を…』
頭に響いたクイーンの声。
それは 先程まで怒りに震えていた声とは違い優しい母親の声だった。
「…………クイーン、………」
メアリーが剣を消すのと同時に花弁も風に乗って舞い散り、皆の姿が見えた。
「メアリー!!」
一番最初に駆け寄って来たのは、ティア。
私の心配をしてくれたのと同時にライガクイーンの行方を気にしていた。
「……私が、殺したの」
「メアリー、が…?」
「うん。」
「……大丈夫、ですか…!」
次に駆け寄ってきたのはジェイド。
にこりと微笑めば安心したように眼鏡のブリッジを押し上げた。
そのあとはジェイドがイオンを叱ったりとしていたけれど私は会話に参加せずにひとつだけ無事だった卵を荷物へと仕舞い、冥福を祈った。
ライガクイーン…約束は、守るわ。
「メアリー、行こうぜ!」
「あ、うん!」
ルークに手を引かれて着いた場所は、あの大木。
ということはチーグルに報告かしら?
何も話を聞いていなかった私は、中に入るのを止めて外で待っている事にした。
途中なのかジェイド一人が出て来た。
「何ですか?メアリー、その格好は」
「旅人風味よ。これなら軍人って判らないでしょう?」
「ではあの口調も?」
「えぇ。演技派なの」
クスクスと二人で笑い合う。
ふと、ジェイドが真剣な顔をした。
「…メアリー、これからタルタロスに向かいあの二人を捕らえます。よろしいですね。」
「…もちろんよ。そのつもりだったもの」
「では、メアリーもタルタロスに向かってアニスと待っていてください。」
「…わかったわ。」
ジェイドはメアリーがタルタロスに向かったのを確認してから、再び中へと戻って行った。