ガタガタ 揺れる辻馬車。
向かう先は、
この国の首都。
そう、グランコクマ。
だけど、ティアやルークは知らない。
ここがマルクト帝国で、
二人が行きたいバチカルではないことを。
さぁ、どうやって二人の不法入国者を連れてエンゲーブに向かおうかしら。
食料泥棒?
「メアリーは寝ないの?」
「え、あ…うん。ティアは?」
「私は良いわ。」
「そっか。」
「えぇ。それにしても…こうやって寝てれば…素直そうでいいのに。」
「…さっきのは、確かに我が儘だったもんね」
眉を下げながらメアリーが思い出すのは この辻馬車に乗る時の事。
「わ、わぁぁ!?漆黒の翼?!」
「ち、ちがいますよ!私達、迷子になっちゃったんです…!」
水を汲みに来ていたであろう男はバケツを被り怯えたように震えていたのだが、メアリーの迷子という言葉にようやく顔をあげた。
「ま、…迷子…?」
「…はい。ね、ティア」
「えぇ。私達、訳合ってここで迷子になってしまったんです」
「そうだったのか。…俺は辻馬車の馭者なんだが…」
「馬車は首都に行きますか?」
「あぁ」
「本当か!?」
ここで嬉しそうに声をあげたのが今まで黙っていたルーク。
「これで靴が泥で汚れなくて済むぜ!」
「で、一人あたり12000ガルドだ。三人だから36000ガルドだな。あるのかい?」
「た、高い…」
「首都に着いたら払うからさ!いーだろ?」
「うーん…うちは前金制なんでねぇ」
「なんだよ、ケチ!!」
「そう言われてもなぁ」
ルークと馭者の男が言い争いを繰り広げているとティアが何やらネックレスを差し出した。
「………これなら、どうかしら…」
「ほう、大した宝石だ。乗っていきな。」
「やりー!」
「………ティア、今の……」
「…良いのよ…。」
儚く微笑みを浮かべるティアに、メアリーはユリアの面影を垣間見た気がした。
「!」
「メアリー?」
「あ、何でもない!行こう!」
「……本当、さっきとは大違い…」
すやすやと眠るルークの寝顔はあどけない少年みたい。
「…本当ね」
穏やかに微笑むティアは、ユリアのよう。
目を閉じれば思い出す、ユリアとローレライの願い。
"オールドラントを、救って欲しい"
「ふぁーあ!」
メアリーの思考を中断したのはルークの欠伸。
どうやらようやく目覚めたらしいが、よく寝ていたわりには文句を言っている。
―ドォンッ!!
砲撃音が耳に届いた。
その途端、馬車はいっそう揺れをまし、ルークが興味本意から外を覗けば何か見えたらしく叫びだした。
「あの馬車、攻撃されてるぞ!?」
「ルーク、危ないわよ!!」
「タルタロス…!!」
ルークとは反対の窓からメアリーも身を乗り出した。
昨日まで自分が乗っていたタルタロスが辻馬車すれすれを横切る前に懐かしく感じるジェイドの声が聞こえた。
『そこの辻馬車!道を空けなさい、巻き込まれますよ!!』
「……本当に巻き込んだらどうするのかしら…」
外を見たままのメアリーの呟きは尤もである。
くるりと体を反転させて馬車の中に戻ると重苦しい雰囲気の中、馭者の言葉が響いた。
「ほら、あれが…エンゲーブ、食料の村だ!」
その言葉から数分しないでエンゲーブに辿り着いた。
「久しぶりに来たなぁ…エンゲーブ」
「あら、ならメアリー。あとで、宿まで案内してくれる?」
「もちろん!」
「おぉー、すげー!食いもんがいっぱいだな、ここ!」
「流石、食料の村ね。露店の食材屋だらけだもの。」
「エンゲーブの林檎は、とくにおいしいんだよね、私好きなんだー」
「メアリーのオススメなら、あとで、買おうかしら」
ティアとメアリーがそんな会話をしているとルークも聞いていたのか林檎をひとつ手に取り口に入れて歩きだしてしまった。
お金は、払っていないので無銭飲食だ。
「ちょ、アンタ!お金!」
「は?俺が払うのか?」
この言葉にはメアリーもティアも店主でさえもぎょっとした。
警備兵に突き出すと言っていた店主だが、メアリーがお金を払った事により事なきを得た。
そのあとも宿屋に行くまでにルークの文句がこぼれていたがティアが嗜めていた。
「…ん?なんだ、あれ?」
「食料が盗まれたとか言ってるよ?」
聞こえる単語は漆黒の翼、食料庫、盗まれたという事。
「漆黒の翼ってヤツは食いもんなんか盗むのか?」
ルークのこの言葉に思わずため息を吐きたくなった。
案の定、村人と言い争ったルークは食料泥棒という濡れ衣を着せられて村長…ローズさんのもとへと連れていかれた。
「………どうしよう…」
「メアリーは宿屋に行ってて。私、ルークを連れてから行くから」
「…あ、うん…」
ジェイドに逢ってしまう、と考えていたらティアの方から宿屋へ行っていいと許可がでたので甘えることに。
エンゲーブで落ち合うという約束だし……
明日、上手く二人を捕まえようかしら。
そんな事を考えながら、メアリーは宿屋へと足を向けた。