ぐらぐら、揺れる艦(ふね)の中


空の端に天高く伸びる光の柱。
それは、やがて轟き音と共に収束して消えた。


強力な第七音素による
キムラスカ方面からマルクトへの正体不明の反応。



一体、これから何が起こると、
いうのだろうか………。







白と黒












「第七音素……。調べておく、必要がありますね…」

「…そうね。」

「大佐ぁっ、メアリー!一体今のはなんですかぁっ!?」


ジェイドとメアリーが兵士に報告を受け これからどうするかを考えていると、アニスが重たい空気に耐えられなくなったのか声をあげた。

眉間にシワを寄せて心配そうな目を向けるまだ幼い少女。
そうだ…
いくら導師守護役といえど彼女はまだ 年端もいかない女の子なのだ。
私達が悩んでる姿なんて見せて不安にさせたらいけない。



「………ジェイド、私は陸に着いたら第七音素が収束した場所へ向かうわ」


「…そうですね、それが1番でしょう。お願いできますか?」

「もちろん。アニス、心配しないで大丈夫よ。」

「……本当ですか?」

「えぇ」


頷いたのは、メアリーか…ジェイドか…。
どちらかわからない。
もしかしたら二人かも知れない。
どちらにせよ、ようやくアニスがほっと息を吐いたので 安心させることが出来たようなので良しとする。



「では、メアリーは陸に着いたらお別れ、なんですか…?」


「……イオン様…」



残念そうな声色で、きゅっと服の裾を掴まれた。


「大丈夫です、また合流しますから。」



失礼を承知で、イオンの頭を撫でやれば太陽のように微笑まれて 今は家にいるであろう少年の微笑みと重なる。



「……」


「メアリー?」


「あ、いえ…」


少し、違う。
目の前にいる導師は確かに彼と同じだけど、違う存在だ。
"姉様"と呼んではくれないし、重ねるのは失礼だ。



「では、私はここで。」


「はい。メアリー大将、落ち合う場所はエンゲーブで」

「わかったわ。」



まだ動き続けるタルタロス。
そんなこと気にせずにメアリーは飛び降りた。


「えぇ!?」

「メアリー!?」


アニスとイオンが驚き手摺りから身を乗りだして下を見下ろしたがタルタロスが巻き上げる砂埃でメアリーの行方はおろか、地面さえ見る事ができなかった。
二人が慌てる傍ら、ジェイドはニコニコと貼り付けたような笑みで一度だけ外を見ると踵を返してさっさと船内へと入って行ってしまった。
















日も落ちて月が空に輝く。
さわさわとセレニアの華が風に揺れ、水のせせらぎも聞こえてくるこの場所……タタル渓谷。
第七音素が収束したこの場所に、精霊の力を借りてメアリーは辿り着いた。


夜闇に包まれた渓谷は少しばかり不気味さを醸し出して、魔物が徘徊しているのが 闇に慣れない目でも確認出来る。


「……まだ、証拠は残ってるかしら……。」


それとも流石にない?
……虱潰しに探すしかないわね。
飛びかかってくる魔物の攻撃を扇でいなし、あしらいながら先へと進む。



「…!人…!!」


さっ、と物陰に身を隠して息を潜める。
様子を伺っていれば、男女だとわかる。
倒れ込んだまま動かない二人。
そのまま暫く時間が経てば女の子が起き上がり、辺りを見回したあと、男の子の名前を呼んでいるのが見えた。
女の子はマロンペーストの髪に……あれは、神託の盾騎士団の軍服かしら?
そのまま、やっと起きた男の子に視線を移す。
真っ赤な髪…。
まさか………


「…キムラスカの王族…?」


真っ赤な髪と緑の瞳はキムラスカ王族の証。
文献で読んだだけだから見るのは初めてだけれど…盗み聞きした会話から確信を得た。


"キムラスカに送り届ける"


何が目的か…
いまだにわからないが、とにかく彼らはキムラスカから、あの第七音素によって飛ばされてきた人間。
ならば、私のする事はひとつね。

持ってきていた小さな荷物の中にある、陛下に無理矢理入れられていた服が役に立つなんて…。
今思うと皮肉だわ…。
ゴソゴソと、着替えを済ませメアリーは物陰から身を出した。

「!!誰!?」

「わぁっ…!ま、待ってくださいっ!」


「……貴女は…?」


両手を上にあげ、驚いたそぶりを見せるメアリー。
一見すれば、か弱い女性に見えなくもない。
だが、マロンペーストの髪の女の子は警戒を解くような事はせずに武器を構えたままメアリーを睨みつけている。


「わ、私…迷ってしまって…!そしたら、貴方達、二人を見付けたんです!」


「それは、本当…?」

「は、はいっ」

「おい、冷血女!こんなに怯えてんだから武器しまえよっ!」



あら?
この男の子、意外に優しいところあるのかしら…。


「ふぅ…わかったわ。」


「あの、……良かったら、お二人に着いて行ってもいいですか?」


「………貴女、目的地は?」

「実は、目的地…無いんです。ただ、世界を見てみたくて…」

当たり障りの無い答えを言えば女の子は納得したように頷いて男の子とメアリーには聞こえないように相談を始めた。



「…いいわ。私はティア。彼は、ルーク。」

「お前は?」

「…あ、メアリーです!」


にこっと笑顔を浮かべて握手を求めるように手を差し出せば二人も心良く 手を重ねて、敬語はいらないと言ってくれた。



仲良く痴話喧嘩をしながら先を行くティアとルークの後ろを歩く。





「……見極めなくちゃ…」


「え?」


「何でもない!ルーク、魔物怖いね!」

「こ、怖くねーよ!!」

「え、本当ー??」




さぁ、白か、黒か。
判断は、貴方達次第よ?



<序章編 END>
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