優しい瞳の導師。
彼は私とジェイドの申し出を受け入れてくれた。
和平の為に。
ニコニコとしながら、
導師と導師守護役は ダアトという檻からようやく抜け出した。
初めての気持ち
「わぁ……これが、外……」
「イオン様ぁー…早く行かないとモース様に見つかっちゃいますよぅ!」
「あ、そうですね、アニス。それに、人を待たせていますからね」
「はい!さ、行きましょうイオン様」
「行かなくても、私はここにいますよ。」
ジェイドが現れると二人はそれぞれの反応をした。
きょとりとしながらも穏やかに微笑んだイオンと、警戒心丸出しのアニス。
まるで対照的な二人にジェイドはずり落ちてもいない眼鏡のブリッジを押し上げた。
「こちらに船を用意しました。それを使い私の船までご案内させていただきます。」
「…カーティス大佐、ありがとうございます…」
「じゃぁ、さっさと行きましょう!いつ追っ手がくるか…」
「そうですねぇ、」
三人で小船に乗り込み、ジェイドの船……タルタロスを目指す。
だが、しかし…そこはやはり、導師イオンの逃亡ともあってかダアトから神託の盾騎士団の追っ手が現れてしまった。
「おやおや…どうします…?」
「もう、こんなに…!」
「……。ジェイド大佐、ダンスのご経験は?」
「…嗜む程度には。しかし、お嬢さん?ダンスとは床の上で踊るものだと思っていましたが?」
「…アニス。アニス・タトリンです。」
「これは失礼しました、アニス殿」
にこり、微笑んでアニスは背中に背負っていた黄色いぬいぐるみ…トクナガを巨大化させて小船から飛び上がった。
「一隻目…!!」
大きな水しぶきをあげながらアニスは着々と追っ手の船を沈めていく。
そのステップはダンスさながらのも。
「あ、アニス…!なんて危険なことを……」
「あなたの為ですよ、イオン様。良い部下をお持ちですね。」
「……………、はいっ!」
ジェイドが珍しく人を褒めた。
イオンもそれが素直に嬉しくて大きく頷き、二人の合間に一時だけ、穏やかな空気が流れた。
「…あ…っ…!やば!」
「おっと、」
アニスが足場を無くして落ちてきているのが見えたジェイドはハンドルを切り、落下ポイントにてアニスを受け止めた。
「ナイスフォローです、大佐…」
「いえいえ、あなたほどでは…」
「だ、大丈夫ですか、アニス!」
「……はい、大丈夫です、」
しばらくは追っ手も来なかったのだが、逃がす気はないようで…再びジェイド達は神託の盾騎士団に囲まれた。
「……、後少しでタルタロスなのですが……」
「………」
「イオン様?」
どうするべきか悩んで彼女を呼ぼうと合図を送った時、イオンが立ち上がった。
「僕がやります」
「駄目よ」
「!?」
掴まれた腕にイオンは戸惑いを見せた。
女性は、ジェイドと目が合うと手を離してそのまま神託の盾騎士団の小船に乗り移った。
「大佐、彼女は…?」
「私の上司、メアリー大将です。」
「た、大将…!?」
「えぇ、実力は確かですよ。」
そんな会話をしていたら、いつの間にか神託の盾騎士団の船は転覆していて、メアリーが戻ってきた。
「さ、早く行きましょう?皆待ちくたびれてるわ」
「あ、メアリー大将!アニス・タトリンっていいます!」
「大将なんて、なくていいわ。よろしくね、アニス」
「はい!」
「イオン様も、」
「はい、メアリー」
「メアリー大将、皆さん、そろそろタルタロスです」
「あれが、タルタロス…」
「近くで見ると、いっそう…でっかー…」
さっきまでは遠くにいたからか小さく見えていたタルタロス。
(まぁ、小さくと言えどもそれなりに大きかったが…)
だが、今では有り得ないくらいに大きい。
こんなに大きな艦(ふね)でマルクトからキムラスカまで内密に進めるのか、些か不安に思う。
「さ、イオン様、お気をつけて」
「ありがとう、メアリー」
でも、そんな事は手を差し延べられ重ねて、タルタロスに足を踏み入れた途端に消えた。
「メアリー、ジェイド…アニス…」
三人が揃って首を傾げる中、イオンは一人楽しそうに笑った。
「僕、こんなにドキドキしたの生まれて初めてです。」
芽生えた気持ちは……
そう…これから何が起こるのかというワクワクした気持ち。