預言。
ソレは始祖ユリアの導きのもと、だされる絶対的なもの。

酷い人は朝食から何まで預言で決めてしまう。

でも、私に その考え方は到底理解しがたい。
だって、そうでしょう?
確かに預言はよく当たるけれど、それは皆が仕向けてしまうから。
病気になって、後1日しか生きられない…そうなると生きる事を諦めてしまうから。

よく考えて?
預言は、未来の選択肢のヒトツにすぎないのよ。
それだけは、忘れないで。






導師イオン





「出ていけ!僕にはもう関係ないんだ!」

「イオン様、……」

「うるさいっ!」

「聞いてくださ…」


バタンッ!!
大きな音と共に閉じられた扉。
もう、関係ない。
そう言ったイオン様。
どうして…??


私がダアトに来たのには理由がある。
ピオニーに言い渡された
「和平条約の仲介に、導師イオンを」という極秘任務の為。
そして私はダアトへとやってきてイオン様と謁見したのだ。

彼を見た時
まだ幼いのに導師という立場なんて…と思う反面、余りにも私にそっくりで驚いてしまった。
それはイオン様も同じだったらしく私を見て目を見開いたかと思えば、どこか泣きそうな顔をしていて…
放っておけない、って思った。


「イオン様、開けてください。」

「嫌だ!」

「イオン様…」

「帰れ!!」

「嫌です。了承して欲しいのもそうですけど…泣きそうにしてる子供を放っておけません。」

「僕は子供なんかじゃない…」

「…子供ですよ。」


扉を隔てて私と会話してるのは、導師というよりも、強がってるただの子供。

そこからしばらく無言が続いて、どれくらい経ったのかしら…?
ようやく扉が開かれた。


「……イオン様、」

「!…まだ、いたんだ…」

「帰らないと言いましたから」

「…………、入りなよ。」

「良いんですか?」

「……ずっとそこに居られても迷惑だからね」


視線を定めないままにイオンはメアリーを部屋へと促した。




カチャ…
温かい紅茶を導師守護役の女の子がいれてくれて、部屋を後にしてから私達の間には一切会話がない。
でも、ずっとこのままというわけにもいかない。


「…お話、進めてもよろしいですか…?」

「ねぇ」

「?」

「名前は?」

「……メアリーです。」

「なら、メアリー。世間話、しよう?」

「…はい。」

泣きそうな、そんな顔で言われたら断ろうにも断れない。
断るつもりも無かったけれど…



「メアリーは、預言をどう思う?」

「………」

「言えない?僕が導師だから、というなら…メアリー。ここからはプライベートにしようよ。敬語も無し。」

「……………解ったわ。」


イオン様、……いえイオンの申し出を断る理由もない私はすんなりと受け入れた。


「私は預言をくだらないと、思うわ。」

「へぇ…、どうして?」


興味が沸いたようにイオンはメアリーの話に食いつき、今まで冷めていた瞳は何処か輝きを取り戻した。
それからメアリーは自分の預言に対する考え、在り方を話し、全てが終わる頃にはすっかりイオンと打ち解けていた。


「ねぇ、メアリー……僕、メアリーを家族だと思ってもいい?」

「なら、イオンは私の弟ね」

「じゃぁ、姉様…?」

「ふふ、おいで、イオン」


ぎゅっと優しく抱きしめればイオンは次第にぽつり、ぽつり、と自分の事を話していく。


「僕は、幼い頃から家族がいなかった。」


それは本当にいなかった、とか
そうゆう事じゃない。
僕は導師になるべき人間だから。
だから、幼い頃からひとりぼっちだった。
我が儘なんか言えない。
寂しいなんて思わない。

でも…
僕は…導師として世界の総てを知るのと同時に…
自分の命の期限をも知ってしまった。



「預言は、絶対なんだ…」

「私は預言は絶対だなんて思わない。預言は、数ある未来の選択肢のヒトツ。」


メアリーがそういえばイオンは 初めて笑みを見せた。
それは笑顔というにはわかりにくかったけれど確かに口もとが緩んだのだ。


「可愛い…」

「…へ…?」

「もう、イオン可愛いわ…!」

「な、なに…?」

「ふふ、笑ってイオン?あなたには笑顔が1番、似合ってる。」

「急に何…」

「さて、イオン。」

急に態度を一辺したメアリーにイオンは驚きのあまり固まった。

「レプリカ、作ったのよね。導師イオンを世界から死なせない為に。預言を覆す為に。」


「……2年前……。7体作って、1番最後の奴を僕の代わりに……」

「………。レプリカはイオンの代わりには、なれないのよ?」


「それでも、良いんだ…。
僕は、死ぬ前に…愚かな人間に…預言に……全てがレプリカになるという呪いを残したい…!」

呪いを。
叫ぶように放たれた言葉は本気で…。
だけど、私は絶望して欲しくない。
イオンに…この世界に少しでも希望を持って欲しい。



「……死なせない…!!」

「え…?」

「あなたは、私が死なせないわ」

「本当、に…?」

「本当よ。」

「………メアリー…」

「生きましょう、私と。」


明日、陛下に頼んで正式に和平の協力をイオンに申し出に来るようにして貰う。
その前にイオンは、作ってしまったレプリカの子と入れ代わって…私とマルクトに行きましょう。
あなたは、名前を捨てて私の弟として生きる事になる。

それでも、良いなら…
この手を、取って。


「………僕は、生きたい。」

「…、」

「姉様と、一緒に、生きたい」


重ねられた手。
イオンは、もうひとりぼっちじゃない。
私がいる。


全ての決行は、明日。


< To be continued >
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