初めての任務から、
もう4年。
つまり、軍人になって5年目。
この世界に来てからはもう、7年。
今や 順調に少将にまで上り詰めた私には部下もいるし、自分の師団も持っている。
あの時の任務の事は、
ちゃんとジェイドにも報告した…。
だけど
あれからそんな事なくなっていたから私やジェイドは忘れていった。
高嶺の花
「メアリー少将!」
「どうかした?」
「書類をジェイド中佐からお預かり致しました!」
「ありがとう。」
ジェイドの部下であろう彼から書類を受け取って私は自分の執務室へと。
思い返せば、
最初、私はジェイドの部下だったのよね…
なのに今ではジェイドの上司で…
「ふふ、」
「メアリー少将?何を笑ってるんです?」
「あら、ジェイド。」
書類に目を向けながら思い出したようにメアリーが微笑めば調度良いタイミングでジェイドが声を掛けた。
「ジェイドは昔、私の上司だったな、って思ったのよ」
「まぁ、確かにそうですよねぇ。今では、メアリーは少将ですからね。」
「ジェイドも昇進の話し、受ければ良いじゃないの」
「お断りしますよ。今の中佐でも身に余りますから」
「ジェイドなら大将までいける実力だと思うけど?」
「おやおや、買い被り過ぎですよ、メアリー少将」
二人は肩を並べて談笑しながら、足を進めるのだが、
そこでメアリーはふと気が付いた。
「そういえば…ジェイド、どうしたの?」
「はい?」
「だって、何も用事ないんでしょう?」
「え、……あぁ…はい。まぁ…」
(彼女、メアリーは…私の気持ちに、気付かないんですかねぇ…。貴女に逢いたいから、私はここに来ているというのに)
「ジェイド?」
「いえ、何でもありません。」
「そう、ならお茶でもいかが?」
眼鏡のブリッジを押し上げてジェイドは微笑む。
その微笑みを見たメアリーの表情も自然と綻びを見せる。
「あぁ、そういえば。昨日、クッキーを焼いてましたものねぇ」
「えぇ」
「是非、ご一緒します」
「なら、すぐに紅茶をいれるわね」
メアリーはそういうと
執務室にある給湯室へと引っ込んだ。
「…月日が経つのは、早いものですねぇ」
メアリーが、この世界から消えて10年。
再びこの世界に戻ってきて7年。
お蔭様で私は既に32歳。
いやぁ、三十路になってしまいましたよー♪
「そうだな、ジェイド。お前ももうおじさんだ!」
「…………陛下…貴方、何故ここに?」
独り言だったはずのジェイドの呟きに返事があった。
ジェイドがゆっくりとソファーの後ろを覗き込めば そこには謁見室、もしくは本人の執務室にいるであろうマルクト帝国の陛下が茣蓙(ござ)をかいていたのである。
これにはジェイドも頭に手をあてて大袈裟に頭を左右に振ってみせた。
「困りましたねぇ…、陛下ともあろうお方が職務怠慢とは…」
「職務怠慢って…違うぞ、ジェイド!」
「何が違うのですか?」
「俺はちゃーんと仕事をしに来たんだ!」
ジェイドの発言にピオニーは心外だ!とばかりに立ち上がりビシッと指先を彼に向けた。
「何処が仕事なんです?」
笑顔でやんわりと聞き返すジェイドにピオニーは一瞬たじろぐも すぐに体制を整え 懐から二枚の書類を取り出した。
「ごほんっ…!あー…ジェイド中佐、貴殿の軍での働き、国への功績を認め其に大佐の名を授ける!」
「!大佐、ですか…」
ジェイドがピオニーに昇進の話を突き付けられた直後、メアリーが紅茶とクッキーを持って戻ってきた。
どうやら二人の会話を聞いていたらしく穏やかな微笑みを見せてジェイドに祝辞をのべている。
「並びにメアリー少将、貴殿の軍での働き、国への功績を認め其に大将の名を授ける!」
その空気を壊したのがピオニーのメアリーに対する昇進話だった。
ジェイドに祝辞を言っていたメアリーはその笑顔のままピシリと固まっている。
「おやおや、メアリー大将、になるんですねぇ。おめでとうございます。」
「!ぴ、ピオニー陛下!私には大将なんて勿体ないです!」
「そうか?充分似合うと思うけどな。」
「へ、陛下…」
「あ、それとメアリー。特別師団師団長、就任おめでとう。」
「!?」
「おや、凄いですねー」
「え、えぇ!?」
「正式に昇進するのは後日だからな。」
少しパニック気味なメアリーを余所に、ジェイドとピオニーはそんなメアリーを見て 楽しそうに笑っているのであった。