"ただいま"


"お帰りなさい"


この約束を果たせただけで
私は幸せなの



理解できた事




向こうにいた時間は
私にとってはほんの数カ月なのだけれど
ジェイド達からすれば、10年近くたっているらしく
ジェイドは 既に25歳になっていて…。
短かった髪も肩まで伸びて、背も高くなってて……




「……別人、みたいね……」


「…メアリーは変わりませんね。」


「……待たせて、ごめんね」


「いえ、こうして帰ってきてくれましたから。」




「……ふふ、そうね」


「えぇ♪」



明るく笑ってくれるジェイドだけど、やっぱり辛いのか少しだけ違和感。


「………」


「さ、帰りましょう」


ジェイドの、手を引いてピオニーの待つグランコクマに帰る事にしたメアリーは歩きながら音を紡ぐ。


メアリーの音律士の旋律のような歌声はジェイドの荒んだ心に染みていった。



「メアリー……」


「なぁに?」

「聞いてくれますか…?」

「えぇ、当たり前じゃない。」


一定のリズムで歩きながら
それでも会話は続ける。


「……私は、貴女が死んでしまった、あの時酷く悲しいと思いました。怒りも沸いた。」


「…それは、死んだ私に対して…?」


「はい。……そして気付いたんです。」


「?」


「メアリー、貴女は私にとって掛け替えのない存在だと。」


「……私もジェイドは掛け替えのない存在よ。」


「!」


「ピオニーも、サフィールもネフリーも。私にとってとても大切な人。誰一人として失いたくはないの…」


一瞬ドキリと胸が高鳴った。
だけど、ジェイドの言う掛け替えのない存在というのは…
私を家族みたいだと思っているから、そう思うと苦しくなって泣いてしまいそうだったけれど……
私は正直な気持ちを口にしてみた。
勿論、恋愛感情の事は言わないままに……



「………そうですか。」


「ジェイド?」



クスクスと笑いだしたジェイドにメアリーは?を頭の上に飛ばすしかない。
だけれど、ジェイドとまたこうして冗談を言い合える、と考えれば
それも良いのかもしれないとメアリーは一人頷くので合った。




水の都グランコクマの宮殿内。
謁見の間とはまた違う部屋。
そこにメアリー、ジェイド、ピオニーはいた。



「そうか、決めたんだな。」

「えぇ、メアリーのおかげで目が覚めました。」

「メアリー……、ありがとな。ジェイドを止めてくれて。」


「いいえ、私は何もしてないわ。ジェイドが自分で決めた事よ。」


「そうか。」


ニコニコとどこか吹っ切れたような表情のジェイドと
笑顔を見せてくれるメアリーにピオニーは安堵の息を漏らした。



「後は、サフィールか……」


「!サフィールも……」


「サフィールには私から話します。メアリー達はここで待っててください。」



そうジェイドに言われては、メアリーもピオニーも従うしかなかった。


「では、失礼します。」



一礼して出て行ったジェイドの背中。
ゆっくり閉まるドア。



何故か不安が拭えなかった。



「……ピオニー…」


「なんだ?」

「サフィールは、大丈夫かしら。」



きっと人一倍ジェイドに憧れていて、ジェイドと同じくらいネビリムさんが大好きで……


だからこそ……
ジェイドがレプリカ研究を辞めてしまうということはサフィールにとって、裏切りに等しい行為の筈。



「解らない。だが、どういう結果だろうが、サフィールはサフィールだろ?」



「………そうよね……。」






何分、何時間にも感じる時間をここで過ごした気がする。


ジェイドとサフィールの話し合いは思ったより長引いているのか いつまで経っても二人は帰ってこない。
それは、話し合いがまだ終わっていないか、
説得できなかった事を示していて……



「遅い、わね……」


「……メアリー、迎えに行ってやってくれないか?」


「………そうね、行ってくるわ。」


場所なんて聞かずに部屋を出てしまったけれど
メアリーにはジェイドの居場所が解る気がした。

いや、解る気ではない。
解るのだ。



ジェイドなら
見通しの良くて人気の少ない場所にいるはず。


そう決めてそんな場所を探す為に少し歩いてみれば
直ぐに、ジェイドの後ろ姿を見つけた。





無言のまま近寄って静かに抱きしめる。
一瞬、強張ったジェイドの身体。
だけど、そんな事気にもせずにメアリーは言葉をかける。



「ダメだったのね…」


「…………えぇ。もう会う事はないでしょう。」


「……………ジェイド…」


「事実ですよ。サフィールは、ネビリム先生を復活させようと望み、私はもうネビリム先生が死んだ、と解っているのですから。」




「泣いても良いのよ…?」


「何を言ってるんです、メアリー。泣きたいのは貴女でしょう?」


ジェイドに言われて気付く。
自分は泣きそうなのだと…。



でも、泣きたくはない。
まだ サフィールの目を覚ませられないって決まったわけじゃないんだから。



「……戻りましょう?」


「そうですね…。あぁ、メアリー。」


「?なぁに?」


「今言うべきではないと思いますが、…」



そう言うジェイドとメアリーの顔の距離は鼻先が触れ合いそうな程に近い。


「ジェイ、ド……」

「メアリー…私は貴女の事を…」



「ジェイドー!メアリー!!」

ジェイドが何か言いかけた時、
ピオニーがやって来てしまった。途端にバッとジェイドから離れ顔を真っ赤にさせたメアリーがピオニーが来た道を歩き出した。


「?メアリー?」

「おや…仕方ないですねぇ」


クスクスと笑うジェイドと何が何だか解らないピオニー。
名前を呼ばれ 振り向いたメアリーは、早く戻りましょ!とまくし立てて今度こそ本当に歩いて行ってしまった。



「……ジェイド、何したんだ…?」

「……いえ、何も?」

「嘘つけ」

「おやおや、酷いですねぇー」


残されてしまった二人は いつものように談笑しながらメアリーが向かったであろうピオニーの部屋へと歩みを進めた。



カツカツカツ!


(…恥ずかしいっ…!)

グルグルとメアリーの頭には先程の事が回っていて、なかなか熱がおさまらない。



「………なん、だったの……?」


唇と唇が、触れ合いそうな程に近かったジェイドの顔…
耳元で呼ばれた名前…
憂いを帯びた、優しい紅の瞳…


考えれば、考えるほど
ジェイドが何を言いたかったのか、分からない…




「……あー…もう…」

分からないけど、
それでも、いい気がする。
覚悟をして 私はここに来たんだから。


恋も、叶えたい。
だけど、世界を守りたい。
ジェイドのいる、この世界を。


「……おーい、メアリー!」

「………ピオニー、いえ…陛下。これからよろしくお願いしますね?」

「!いや!良い、やめろ!」


ニッコリと怪しげに微笑むメアリーの言葉を聞きピオニーは自身を抱きしめながら身震いした。


「メアリーに陛下なんて呼ばれたくない!」


「あらあら…」

「我が儘ですねぇ。」


「ふふ、いいわ。ピオニーが即位しても呼び方は公の場以外は今まで通りにするから」


「あぁ、そうしてくれ。」



あれから一時間程。
紅茶を飲みながらの三人の会話は
最初は談笑であったが、徐々にその内容は これからの事になってゆく。



「なぁ…メアリー、これからどうする?」


「…そうね、どうしましょう?」


「家は私の家がありますから大丈夫ですね♪」


「…良いの?」

「えぇ。」


ピオニーはポンッと手を叩いて おぉー と頷いた。


「そうか、ならメアリーはジェイドの家に住む、で決定だな。必要な物は俺が明日までに送る。」

「……ありがとう、ピオニー、ジェイド。」


「あとは…そうだな、戸籍はマルクト帝国で作るから良いだろ?」

「勿論よ。それでね、ピオニー。お願いがあるの。」

「…ん?」

「私…軍人に、なりたい」


「…………………本当に良いのか?」


メアリーの強さを知っているピオニーは止めはしない。
ただ本当にやるのかを聞くだけ。だからこそ、メアリーは強く頷いた。


護りたい。
皆が、好きだから。



「やるわ。私は次期皇帝のブレーンでしょう?なら軍人にならなきゃ。陛下をお護り致しますわ」
冗談めいた口調でメアリーはにっこりと笑顔を見せた。
それに納得したピオニーとジェイド。

「そうか…」


「メアリー…、よろしくお願いしますね」


「よろしく、ジェイド。」



決意を固めて、メアリーは
次期皇帝であるピオニー、そしてジェイドを護る為に軍人になる事になったのである。



<To be continued>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -