ただいま。



たった一言なのに、



たったそれだけの事なのに



私はなかなか貴方に
伝える事が出来ない…。


云えない言葉



「……ここが…?」


「あぁ、ジェイドの居る研究所だ」



ピオニーに連れてきて貰って辿り着いたのが研究所。
彼の話だとジェイドはここで
軍人をしながら研究をしているとのこと。



何の研究か……



そんなの、改めてピオニーに聞かなくても判ってしまう。
というより、確信に繋がってしまった。



私はそれをネフリーに聞いて 止めに来たのだから…
ジェイドのレプリカ研究を…。



「……メアリー、」


「大丈夫よ、ピオニー。行きましょう。」



ノブを回し扉を開く。
生憎と ここは自動ドアのように便利な扉はなく 全て手動。
中に足を踏み入れれば
途端に 背筋に冷や汗が流れた。


「…………ジェイドは…」

「もっと奥じゃないか…?」


一部屋、一部屋 ジェイドがいないか確かめながら奥へ奥へとメアリー達は進んで行く。

1番奥の部屋に辿り着いた時、メアリーは見つけてしまった。寝台の上でうごめく、人影を。



「!……誰…?」



パチッ!と音を鳴らしスイッチを押せば 明かりが灯る。

部屋が暗かったからか、少し目が慣れるのに時間が掛かった。
目を懲らし寝台を改めて見れば、ジェイドのようなハニーブラウンに薄い赤の瞳の人が必死に起き上がろうとしている。


「……レプリカ……」



自然と声になったそれに反応したのはその言葉を向けられた本人。
無造作に垂れる髪の合間からメアリーを睨むその瞳は鋭く光り 自由に動けるならば すぐにでも飛び掛かってきそうだ。



「ぅあ、ぁーっ!」



「喋れない、のね……。」


「…多分、作ったばっかりなんだろうな…」



ジェイドと同じ顔のレプリカ。
自分さえも実験台にしてまで彼はネビリムさんを求めるというの…?




「なんで…そこまでして、」


「………アイツは…」



ピオニーが口を開いた瞬間、レプリカの彼は力を振り絞って、二人に襲い掛かった。

刹那
ズブリ、肉を裂き食い込む音が狭い部屋に響く。
発信源は、メアリー。


メアリーはいつの間にか 月影の舞姫を手にし、レプリカの心臓を寸分の狂いもなく突き刺していた。



「―――ごめんね……」



レプリカの体が光り輝き音素となり拡散した。

剣を伝い落ちゆく赤い血はメアリーの手により薙ぎ払われる。部屋に散る赤。
クルリと踵を返したメアリーにピオニーはいつの日かの彼女を見た気がした。









「大丈夫だ。僕は失敗しない」


「本当!?ジェイド!!」

「あぁ」


「なら、俺にも見せてくれよな」



そう、あれはジェイドが研究材料に魔物を討伐しに行くと言った日。



勿論、大人にもメアリーにさえ秘密で向かったロニール雪山。

本来なら、子供には倒せるような魔物じゃないし、大人でも討伐は難しい魔物。
だけど、ジェイドは大人より強かったから、ジェイドがいれば大丈夫。そう確信してたし、間違ってなんかないって思ってた。



「グランドダッシャーっ!」


「やった!?」


「!お、おぃ…効いてないんじゃないか…?」



「くそっ…!」



そう、過信してたんだ。
確かにジェイドはそこらの大人よりは強かった。
でも やっぱり子供だった。



もう死ぬかもしれないって俺はやけに冷静で……
サフィールが泣いてるのも、ジェイドが焦ったように詠唱を口にしてるのも別の場所から聞いてるみたいに聞こえてた。





その時だった。



「爆撃の追葬!焔舞粒光撃!」


声と共に現れたメアリーは
魔物に剣を突き刺して
ごめんね、そう口にして…
血を薙ぎ払った。


「…メアリー…あの、」


「良いのよ、何も聞かないわ。さ、帰りましょう。」


「あ、待て!メアリー」



クルリと踵を返したメアリー。






昔と同じ。
メアリーが、また行ってしまう…

「待て!メアリー!」





腕を掴めば 立ち止まる。
そんな当たり前な事なのに、何故か安堵した。


「…………、」


「どうしたの?ピオニー」


「あ、いや……」


「ふふ、あれはレプリカよ。顔はジェイドと同じでも中身は違うの。」


罪なき彼ら(レプリカ)を壊すのは辛いけれど
今はそれよりも、ジェイドを止めなければ…



「…ピオニー、行きましょう。」

「行くって、何処に…」


「……ジェイドはきっと、レプリカの情報採種に出てるだろうから」



「………なら、きっとテオルの森を抜けてすぐの場所だ」


「…ありがとう。あぁ、そうだわ。ピオニー、やっぱり貴方は城に帰りなさい。」



「今更何言って…」


しー、と人差し指をピオニーの唇に押し当てメアリーは悲しそうに微笑む。



「ピオニーは街の外に出るべきじゃないわ。」



ね?と逆らえない笑顔を向けられてしまえばピオニーは頷くしか術はなく、彼は大人しくメアリーの言う事を聞く事にした。




「良い子ね」


「もう子供じゃないからな」


それでも、相変わらず昔のように優しく頭を撫でるメアリーに、変わっていないんだな、とピオニーは付け足した。



「……えぇ。」


「メアリーにしか、ジェイドを頼めない。…アイツは次期皇帝の懐刀だ。頼むぞ、次期皇帝のブレーンよ。」


「!………居場所、くれて…ありがとう、ピオニー。」


意味が解った私はクスリと笑いピオニーに別れを告げた。



そう、懐刀もブレーンも、
主君に忠実な部下。


つまり、私も次期皇帝ピオニーの部下になるということ。



居場所をくれたピオニーに感謝しながらテオルの森を抜ける。
すると、背の高いメアリーさえも覆い隠す草が茂った草原に到着した。



「………血の臭い……」


血の臭いと人の気配。
それから魔物。


それらに気付かれないようにメアリーは気配を消して近付いて行く。




「…誰です!!!」


人影が見えた瞬間に投げられた槍はメアリーの頬を掠り地面に突き刺さる。


「……え…?」


武器を奪えると思い突き刺さった筈のソレを取ろうと振り向いたけれど、槍なんか何処にもなくて、私は眉間に皺を寄せながら辺りを見回した。



「動かないでください」


ヒヤリと喉元に感じる冷たさは私が探してた槍だろうか。
目だけで男の手元を見れば確かに長い柄、これは槍のもの。
それに私を殺そうと後ろに立つ彼は…間違えてなければジェイド。

やっと逢えたのに、気付いてくれないなんて…


「……悲しいわね。ねぇ、ジェイド」





<To be continued>
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