ねぇ、メアリー。



私、メアリーは死んだと思ってた。


だから、再会したあの時、
本当はまだ 半信半疑だったの。



だって あなたは居る筈がないんだもの。




ネビリム先生と一緒に死んだ筈だったんだから……。




でも、迷う事なくお兄さんを止めるって言ってくれた。

だから、信じられるの。




あなたは
本当に
メアリーなんだって。


メアリー、迷惑ばかり掛けてごめんね……。
お兄さんを、よろしくお願いします。



果たしたい約束




ブーツのヒールが土を踏みしめる。
そう、雪じゃなくて…土。


メアリーは、あれからケテルブルクから水の都、グランコクマの一歩手前…テオルの森までやってきていた。



「……ここが、テオルの森…」


地図を見ながら位置を逐一確認していく。
そうでもしなきゃ、ケテルブルクから出た事のないメアリーは迷子になってしまいそうだった。




自分の存在を刻むようにゆっくりと森を進む彼女の行く手を阻む者はなく、このままで行けば順調にグランコクマまで到達しそうである。



今のメアリーの頭には
グランコクマについてからの事がせわしなく巡っていた。




まず、ジェイドとピオニー、サフィールを探さなくちゃ。
ジェイドはカーティス家…に引き取られて軍人になったんだったわよね…。
サフィールもジェイドを追い掛けてるんだから軍人よね。
ピオニーは………ジェイド達に聞けば居場所は掴めるでしょうし………。



やはり、問題はジェイドなのね…。





戻ってきた以上、彼には逢いたい。
そして 約束を果たしたい。


ただいま、って…言いたい。


会うのは怖いけど……
それでも、逢いたいのよ…



ジェイド……。


私は
そのために、ここに還ってきたんだもの。




サワサワと木が、水が揺れる。
やっと 辿り着いた都。



「……………ここが、グランコクマ……」



至る所に水の仕掛けが施してあってキラキラと太陽の光で輝き美しい。



だけど、そんな事考える暇もないくらいに 今は、周りの視線が痛い。



「……そんなに、珍しいかしら…」



ポツリ、呟いて 自分の服の裾を引っ張ってみる。
確かに団服は異色を放っているのだが、周りがメアリーへ視線を向けるのは それだけが理由ではなかった。



サラサラの髪に澄んだ瞳。
長身のうえに誰もが羨むような美貌。

それが メアリーが視線を集めている理由でもあった。




「………ふぅ…。流石に…、疲れたわね…」



歩き続けて早数時間。
あんなに日も高かった太陽は今ではオレンジ色の光で周りを照らしている。
それだけ、時間をかけたというのに…
ジェイドはおろかピオニー達の情報がまるで掴めない。
ここまでくると いよいよメアリーは途方に暮れてしまっていた。


「………はぁ…」


仕方ない、と諦めにも似た溜息を吐いてメアリーは 宿を借りる為に歩む。
ガルドはネフリーが貸してくれたから心配はない。
(本当は、あげると言われたけど申し訳なくて断った)





−ガッ!


「メアリーか――っ!?」



あと一歩で宿、というときに
メアリーは誰かに腕を掴まれた。
この場所に知り合いは居ないと思っていたメアリーは不思議に思いながら振り向き驚きのあまりに目を見開いた。



「……あなた……」


眼鏡や帽子、マフラー(スカーフ?)で隠してはいるが、
金の髪に蒼いキラキラと輝いた瞳。それに褐色の肌にメアリーは見覚えが合った。
そう、ネビリムさんの私塾に通っていた悪戯好きの少年をそのまま大きくしたかのような彼…。



「……ピオニー…なの…?」


「!やっぱり、……メアリーなのか…」



疑問系の筈なのに、何処か彼は確信めいた表情を見せて頷いた。そしてメアリーの手を掴んだまま歩き始める。





「…ちょ…待って!」


「…なんでだ?」



「聞きたい事が沢山あるのよ、ピオニー!」



「俺だってあるさ。」


「………なら、あそこのベンチで少し良いかしら…?」


「……あぁ。」



ピオニーが頷いたのを確認したメアリーは今度は逆にピオニーの腕を引いてベンチまで進み二人で座った。



「………ピオニーが、私に聞きたい事って…?」


先に切り出したのはメアリーだった。



「……俺は、メアリーは死んだってジェイドに聞いてた…」


「……確かに、私は死んだ。」

「!なら、なんで…!」


ここにいる?そう続く筈だったピオニーの言葉はメアリーの穏やかな微笑みを見た事で途切れた。





「……確かにあの時、私は…死んだわ。でもね、帰ってくるってジェイドと約束したの。

…目が覚めたら元の世界で……、もう一度、此処に来れるって言われたわ。」


「…だから、帰ってきた……?」


「…えぇ。笑えるわよね…。自分の世界、捨てれちゃうくらい…、それほどジェイドは私にとって必要な存在になってた。彼がいなきゃ、ダメだって…そう思ったの。」



「……メアリー…。」


「でも…、いざ、ここに来たら…怖かった…!拒絶されるんじゃないかって!!私なんか、覚えて…ないんじゃないかって…!」


「そんな事、あるわけがないっ!!」



フワリと香る暖かい太陽のような匂いにドクドクと脈打つ心臓。
気が付けば、私はピオニーに抱きしめられていた…



「…ピオ、ニー…?」



「俺達がメアリーを嫌うなんて……有り得ない……」


肩に頭を預けて言葉を紡ぐピオニーに、私は 泣いてるんじゃないかって一瞬 思った。
だけど、簡単に聞けるものでもない。



もし、泣いていたとしたなら…
それは私が不安にさせたから。




「ごめんね…ピオニー…」

「謝るな…。メアリーは悪くない。」


「……。ありがとう、」


「……おぅ」



しばらくしてから離れたピオニーには笑顔が戻っていてメアリーも自然に笑顔を作れた。




「………ピオニー、…ジェイドは今……」



これが私の聞きたい事。


「……ジェイドは…今、研究所だ…」





<To be continued>
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