雨は止む事を知らず、

冷たく激しい痛みを
私に残して


悲痛な叫び声は
雨音が掻き消した。




キミの代わりに泣くのは空



混濁とした意識の中、ザァァァと雨の音が聞こえる。
誘われるように目を開ければ
曇り空の合間から朝日が見えた。


「……いつの間に、寝たのかしら…」



正面にはアレンくん達が、まだ寝ている。
時間を確認する為に時計に目を向ければ 些か起きるには早い。

けれど もう一度眠るつもりにもなれずに私は図書室を後にした。




「確か、クロスの居る部屋は……」




特に明確な理由を持っていなかった私はクロスに相談する事に決めた。


クロスの部屋は図書室から多少離れていて 見張りが二人つけられている、と兄さんから聞いていた。
おおよその場所は知っているから後は見張りを見つけるだけ。



「ぐーーー」


「すぴーー」


「………。」



見付けてしまった。
えぇ、それはしっかりと目に入った。
見張りの仕事をサボって眠り込む二人が。




「…起きなさい、」


「わぁあっ!?何寝てんだ俺ぇぇッ!!」


「えぇ、本当にね」


「!!ふ、副室長!?」



慌てて起き上がる男と寝ぼけている男。
二人共 見た目がそっくりね…。






「それより、クロスはいるの?」


「は、はい!今確かめます!!」


見張りの人が扉をノックしてクロスが居るのか確認するも
中からは何の返事もなくて一瞬 静かになった。


「…私が確認するわ。良いわね?」


「は、はい!勿論です!」




了承を取りドアノブに手を掛ける。
入る前に気配を確認するけれど…中に誰かが居るような気配は皆無。

見張りの人の言う通り、クロスは抜け出したのかもしれない。


でも…
クロスはなんだかんだで約束とか大事な事は守る人間。

抜け出すなんて、にわかに信じられない…



「入るわよ…?」



扉を開いて隙間から体を滑り込ませる。
小さな音をたてて閉まった筈の扉が大きな音に聞こえる程、この部屋には音がない。



「…クロス?居な………」



入って早々。
私はこの部屋に足を踏み入れた事を後悔した。


暗がりの中、朝日に照らされた赤い髪。
持ち主は力なくうなだれていて
窓には紅の花が咲いている。
血溜まりに落ちている見覚えある銃に私の思考が止まり、



「いゃぁぁあぁあぁぁッ!!」


考えるより先に悲鳴が口から飛び出していた。






「副室長!?どうなさいましたか!!」




メアリーの悲痛な叫びに
待っていた見張りの一人が部屋を覗いた。

彼の目には 大量の血を流したクロスの足元で座り込み放心状態のメアリーが映った。



状況を確認した彼はすぐに放心状態に陥っているメアリーを抱き上げて部屋を出た。


「長官を呼んでこい、」


「え?でも先に元帥捜したほうが…」



クロスの血に濡れたメアリーを降ろしながら呟かれた言葉に彼の相棒はもっともな事を口にした。
だが、それは彼が生きていて、尚且つ部屋から抜け出していたらの話しだ。


「いいから!呼んでこい、早くっ!!」


一目しただけでは生きている、と言い切れない程にクロスからの血が床に溜まっていた。
あんなグロテスクな状態のクロスをもう一度見る勇気がどうしても彼には沸かなかった。



―カシャン


その時、硝子が割れるような音が扉越しに響いて、彼は慌てて部屋に入った。


「!!?なに…!?」


男の瞳が驚きに染まった。
そこに 居た筈のクロスは消えていて 今は仮面と、彼のイノセンスである断罪者が主を失いポツリ、と落ちているだけだった。








「!メアリー・リー副室長、説明をしなさい。

……貴女は何故ここに?」



「ちょ、かん………」


「それから状況の説明を」



遠くから私に呼び掛ける長官。
私がここに居る経緯?

状況の説明?


私はただ、クロスに相談したかっただけなのに……。


逆らえる筈もなく私は知っている事を全て話した。



「…、クロス元帥に相談しようとしたんです……。
見張りの人達に部屋に入る許可を貰って…部屋に入ると、クロス元帥は……」



致死量だと思われる血を流して窓辺に座っていた……。



「……一応、確認します。貴女ではありませんね?」



「!!私のわけ…っ!!」


疑うのは、私が血に濡れてるから?
それとも、昨夜の事で…?


でも、私じゃない…。





「一応、ですよ。」



「……違います、私じゃない…」


「そうですか。」


そう呟いた長官は扉の奥へと姿を消した。


「…どうして……っ…」


どうしてクロスが…。
何が合ったというの……。


悲しみが胸に渦巻き、はけ口が見付からない。




「…副室長、入室願います。」



部屋の状態を確認しようとした時にタイミングよく 見張りだった彼から声が掛かった。







「…!!クロス、は……?」



「すみません…確認した時にはすでに…」



クロスが居ない…。
確認した時って事は…私が、放心状態になっていた時よね…。

そんな短い間に
消えたなんて…。



…もし、クロスが生きていたなら…狙われるのを防ぐ為に自分から消えた…?

それとも、連れ去られた?



どちらにせよ状況はよろしくない。




「……長官、何か解りましたか…?」


「いいえ、今のところは何も。」



割れた窓硝子を見ながら長官が無表情に答えた時、兄さんが慌てた様子で現れた。



「何があったんですか…!?」



部屋を見回して 血溜まりに兄さんの視線が止まる。
踏み締めるように こっちに歩み寄る兄さん。

仮面に手が触れる瞬間 ティムキャンピーが兄さんの手に留まる。


その一連の動作は、時が止まったように見えた。


「!!」



兄さんを見ていた私も兄さんも慌てて扉を見る。
そこには呆然とアレンくんが立っていた。


「ティムが突然、起きだして……ここに……」


「っアレンくん、行きましょう!」


「メアリー……それ、血…?」


「…っ…」



私にベットリと付着した血。
奥の惨状を見せまいとした行動が墓穴を掘ってしまった。


今更横を向いても
もう遅かった。



「誰…の?」


誰一人、口を開けない。
アレンくんの表情が絶望に染まる。
目線を追えば、クロスの仮面。

何よりも隠すべきものが合ったのに…。
何をやってるのよ、私は…っ




部屋には、アレンくんの代わりとでもいうように激しく泣き続ける空の音が響くだけだった…――――。




<To be continued>
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