夢で見た貴方は
大人になってて


何だか置いていかれた気がして
悲しかった。


だけど、
この想いだけは変わらない。




本当の目的




ポツポツと冷たい雨が身体を打つ。
けれど目の前に聳える威容を誇る建物を前に船室へ入ろうなどとも思わずに、ただ見つめ続けるだけ。
見つめる、と言ってもメアリーに見えているのは建物ではなく 夢で見た彼。



「……ジェイド…」



どういうつもりで私に口付けたの?
ジェイドの本心が、解らない……。

唇に残る感触に、会えない寂しさが溢れそうになる。



同じ世界だったなら、こんなに苦しくなかったのに……。

どうして違う世界なのかしら…




「メアリー。」


「!ジェ……」

「?」

「ア、レンくん…」


名前を呼ばれて、ジェイドだと勘違いしてしまった。
馬鹿ね、私も。
アレンくんとジェイドじゃ、声だって 全然違うのに…。
ましてや、居る筈がないのに…。



「どうかしたんですか?」


「どうして?」


「だってメアリー、寂しそうだから」


「……、」



アレンくんには、話してしまおうか…。
ううん、いつかは皆に言わなくてはいけない。
だったら、アレンくんとクロスには、話そう。私の気持ちを。


「アレンくん、聞いてくれる?」


「うん。聞くよ。」




「私ね…、好きな人ができたの。」


「え?い、いつ!?」


「…この前の任務の時。…偶然か必然か…私と、ジェイドは出会ってしまった…。」


驚いた顔のアレンくんに構わないで 私は自分の気持ちを吐き出していく。
ここで、アレンくんに言ってしまわないと、私はきっと方法を見付けたら誰にも言う事なく世界から消えるだろうから。


「…ジェイドは、私より2歳年下。アレンくんと同い年ね。」


「そのジェイド…さん、は今は?」


「絶対に会えない場所に居るの。ううん、世界、かな……。」


「世界…??」


「ねぇ、アレンくんは…異世界を信じる?」



私達の住む世界とは別の次元にある世界を。
絶対に交わる事のない平行線を。



「……わかりません。」


「ふふ、普通はそうよね。」


だけど私は世界を渡った。そこで彼と出会って、ジェイドを好きになってしまった。



「………………私ね、世界を捨てようと思う。」


「……え、」


「世界をもう一度渡れるなら…。自分の世界が、邪魔なら……。」


切り捨てようと思うの。
それほどに、私はジェイドと居たい。
ううん…あの世界が好きになってしまった。






「そ、そんなッ!なら、コムイさんやリナリーは!?」


「確かに…大切な家族よ。仲間の皆だって、私の大切な家族。」



でも、その家族を捨ててもいいと、思えてしまう程…



「私の気持ちは揺るがないの…。」


「メアリー……」


「嫌な奴でしょ?…仲間が大切だと、無くしたくないって、言っておきながら…私は、世界を捨てると言ったんだもの。」


「……いえ。メアリーが決めたなら、僕は何も言わないよ。だって、メアリー…辛そうだ。」



「……ふふ、流石アレンくんね。」


辛いよ、確かに。
でも私は………
ジェイドに会えない方が辛い。



「それに、捨てるって言ってもいつになるかなんて解らないんだもの。」



「…うん。」


「でも、方法があるなら…」


「うん。」


「……ちゃんと、さよなら、は…言うから……」


「うん、判ってるよ、メアリー。」


「……ありがとう…っ」



最近、泣きそうになってばかり。
駄目だな、私も……。
泣かないって決めてるのに。



「泣いてもいいんだよ。」

「!」

「メアリーは我慢してばっかだから。たまには泣かなきゃ。」


「……アレンくん…」





アレンくんが、そう言っても…私は泣かないよ。
だって決めたから。



「私、泣くのはジェイドの前だけって決めたの」


「…なんだか、ジェイドさんに妬けますね…」


キッパリと笑って言えばアレンくんも笑いながら言ってくれた。
良かった…、ジメジメした空気にならなくて……。



「姉さん、アレンくん。風邪ひいちゃうよ」



「リナリー、ジョニー」


「平気よ。ね、アレンくん」


「うん。ジョニー達が作ってくれた団服あったかいから。」


「ホラね。リナリー。」


「ふふ…そうだね」


「?なに?」


「今ね、奥で……、姉さん?」



気付かれないように、ゆっくりと会話の輪から外れて船室に入ろうとするとリナリーに呼び止められた。
リナリーは気配に敏感なのかしら…?



「ごめんね、私…兄さんの様子見てなくちゃ。」


「…わかった。じゃぁ、姉さん、兄さんをよろしくね」


「えぇ。」


リナリーの声にメアリーは背中越しに返事をして船室に入って行った。




「兄さん、様子はどう?」


コムイは身体を起こしてはいるものの何処かいつもの元気が無かった。それは船酔いのせいなのだが、いつもと調子が違って大人しいコムイを見てると何だか可愛いなー、と思ってしまうメアリー。



「駄目かも…」

「あらあら…」


何だか母さんになった気分ね。

兄さんの背中を摩りながら、今はもう居ない母さんを思い出す。



「メアリー…皆は?」


「外で話ししてる。アレンくんの敬語が無くなってきたよねって…」


扉を閉める前に聞こえた会話。
敬語が無くなってきたのはいい事だと、私も思う。
それだけ、アレンくんが私達に心を開いてくれてるって事だから。



「あら?兄さん?」


「そろそろ到着するからね、皆を呼んでくるよ。メアリーも降りる準備してて」


「気分が悪いなら…無理しないでね、」


「うん、大丈夫だよ」


いつの間にかドアノブに手を掛けてた兄さんに声をかけると
到着が近い事を教えてくれた。

なら、外の三人は兄さんに任せて私は準備をしなくちゃ。


明日の朝
本部団員すべてが新しい本部へとやってくる。
その為に私達は一足早く現地に入る事になったのだから。


本部へ着くとすぐに仕事は始まった。



−タッ…

「うん。その位置でお願い。」


「…………… ……………」



アレンくんとジョニーは
ゲート作り。



「兄さん、すこし周辺見廻ってくる」

「わかった」


リナリーは
新しい本部の確認。



「お待ちしてました。室長、副室長。」



兄さんと私は
長官との対談の為に。

でも、その前に私はアレンくんをクロスが居る部屋に【鴉】と共に案内しなくてはいけない…。



「アレン・ウォーカー。
今から、貴方は長官の指示に従って貰います。」


「え…メアリー…?」


「着いて来なさい。」


無表情にアレンくんにそう告げて私は踵を返して進む。

仲間、だけど
中央庁はそれさえも疑っている。
だからこそ、この任務、表向きはゲート設置の為と言っていた。アレンくんや皆に悟られないように。


けれど、本当の目的は…アレン・ウォーカーが仲間かどうか見極める事。

その為に、クロスとアレンくんは対面させられる。


それも 最も最悪な形で…。



<To be continued>
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