長い長い夢物語のような現実。
現実だと判るのは、胸に宿る気持ちのおかげ…―――。
帰還
風が頬を撫でた…―――。
え…?
風……?
「わたし……、」
生きてる?
閉じていた眼を開ければ
そこは見慣れた雪景色ではなく、木々が生い茂る森。
手に硬い感触を感じて視線を向ければ 常日頃から接していた筈のイノセンス。
「………私、帰ってきたの…?」
元の世界に。
私の在るべき世界に……。
それとも、あれは夢だった?
「死ねェェェエェ!」
思考に耽り周りを見ていなかった私を襲ったのはアクマで、大きな巨体で無かったら存在に気付かなかったかもしれない。
「っ…!」
バックステップを使って後ろへと跳ぶ。
激しい轟音と共にアクマが地面へと減り込んだのが解った。
でも、私は死ぬ訳にはいかない。
ううん、死んだらいけない。
この胸に宿る気持ちがあの時間は現実だと教えてくれてる。
なら、私は約束を果たす為に生きて あの世界に行かなくちゃいけない。
「ごめんなさい。私は、もう死ぬわけにはいかないの…!」
私に向かってくるアクマを擦れ違い様に扇で一閃する。
「ギャァァ!!」
イノセンスに侵されたアクマは断末魔と共に朽ち果てた。
「おやすみなさい…。
良い夢を…――――。」
剣ではなく、扇を使ったのは
私が躊躇したからなのかもしれない…。
アクマとレプリカ。
似てるけど異なる存在。
アクマは魂と悲劇から作られ、レプリカは被験者の情報から作られる。
似通った部分が多いふたつの存在。
アクマを見てネビリムさんのレプリカを思い出してしまった…。
「……馬鹿ね、私も……」
呟いた言葉は風に乗り消えていく。
思い出すのはネビリムさんだけじゃない。
サフィールやピオニー、ネフリー。
そしてジェイド。
「……ジェイド……ッッ」
溢れた気持ちは、留まる事を知らずに涙となって溢れ出した。
見上げた空は、何処までも青くて…私は少しの間、そのまま魅入っていた。
<To be continued>