この実験は
誰にも言えない秘密。


秘密を知ってるのは
棚に置かれた一体の人形のみ。



自覚



メアリーが音素集合体を召喚出来ると解ったのは、つい先日。


呆然とするメアリーを連れて先生に全てを説明すれば
先生も僕と同じ仮定を立てた。


僕はメアリーに色々と聞き出そうとしたのに、先生が


「メアリーは疲れてるだろうから、また今度ね」


そう言ったから渋々諦めた。


あれから毎日、メアリーに話しを聞こうとしては鼻垂れやピオニーの邪魔が入って 結局は聞けずじまい。




でも 今日。
何が何でもメアリーに聞き出すと決めた。




「お、ジェイドじゃねぇか!」


「……………………。」



「…無視か!?」



ジェイドが道を歩いていると
広場からヒョコリとピオニーが顔を出した。
勿論 ジェイドはそんなの無視。
スタスタと少年にしては長い足で進んで行ってしまう。



「ジェイド!そんなに急いで何処に行くんだ?」


「………メアリーのところだ」



だが此処で諦めないのがピオニー。
ジェイドの行く手を阻み問い質した。




「ふーん。……あのさ、俺思ったんだけど…ジェイドってメアリー好きだろ?」


紅い目が驚きに見開かれる。









「僕がメアリーを好き…?」


「あぁ。」


「有り得ない。」


「嫌。有り得るんだよ、それが。」


ジェイドの眉間に皺がドンドン寄っていく。
それに比例するようにピオニーの笑顔も増していく。



「よく考えてみろよ、ジェイド。」


「………考える意味が無い」


「…まぁ、良いけどな。」



この話は終わりだ、とジェイドに睨まれてしまっては流石のピオニーもそれ以上は何も言えない。








「……」

「……」

「……ピオニー」

「何だ?」

「何で着いてくる?」

「行きたいからだ。」


しばし歩き後ろを振り返る。
当たり前のようにいるピオニー。
何を言っても着いてくるだろう。ニカリ、と笑顔を見せた。
ジェイドは諦めたように再び歩き始めた。








「いない?」


「えぇ。メアリーなら昨日、知り合いの家に泊まるって言ってまだ帰ってないの。」



折角 ネビリムの家に着いたというのに 目的のメアリーが不在。
ジェイドは内心 舌打ちをした。

「先生、メアリーの居る家って…」


「メアリーの話だと町外れみたいね。なんでも家主さんは研究者みたいで…」


「…(研究者……)」


「研究者か。ネビリム先生、ありがとうございました!ほら、ジェイド行くぞ!」


考え込むジェイドの手を引いてピオニーは その研究者の家とやらがある町外れまで歩き出す。

その道中に会話は一切無かった。





「ここだな。」

「あぁ…」




目の前には大きく聳えたつ屋敷。
本当に研究者なんかが住める家なのかと疑いを掛けたくなったが もとが貴族なのかもしれないと決めつけ自分の中の疑問は切り捨てた。



「…よし、行くぞ!」


そう言って止める間もなくブザーを押す。

数秒後、ガチャリ、と音を響かせながら扉が開いた。


「え、ジェイド?それにピオニーまで…?」



扉から顔を覗かせたのは
探し求めていたメアリー。
だが、いつもと何処か雰囲気が違う。




「メアリー、だよな?」


「へ?えぇ…そうよ?」



不思議そうな顔。
まぁ 当たり前だろう。
突然 本人かどうか確認されるのだから。



「あぁ、眼鏡だから別人みたい?」



原因に気が付いたのかメアリーは笑いながら眼鏡を指差す。


「あぁ。それと、白衣も。」


ようやっとジェイドが喋った。
訝し気に白衣を見つめるジェイドにメアリーは苦笑を零す。


「これは、ちょっと研究してて。」


「研究?」


「えぇ。詳しくは話せないけど…施設を貸して欲しかったから頼んだら了承してくれたのよ。」


「……研究って何のだ?」


「……ごめんなさい。話せないわ。」



罰が悪そうに目を反らすメアリーにジェイドの中で何かが切れた。



「そうか。なら、もう良い。」



「え、…ジェイド?!」



メアリーが何かを秘密にしてる事に無性に腹が立ったから踵を返して走り出す。
メアリーの僕を呼び止める声も無視してその場を去った。





「ジェイド!!」


「………馬鹿だよな、ジェイド」


「ピオニー…?」


ジェイドが帰った理由が判るの、とメアリーは目で訴えてくる。
アイツはメアリーが秘密を作った事に苛々してるみたいだしな。

すげぇ、独占欲。



仕方ない。此処はいっちょピオニー様が手を打ってやるか!

ジェイドは、後はメアリーに対する気持ちを自覚するだけなんだ。


「メアリー、ジェイドを追ってやってくれ」


「でも、ピオニーは…」


「俺は、ただジェイドに着いて来てただけだしな。メアリーに用事が合ったのはアイツだよ。」


「そう……。なら、ごめんね?」


「おぅ。」


メアリーだって 少なくともジェイドを嫌ってない。

チャンスはあるだろ?


「さー……上手くやれよ?ジェイド」



誰に言うでもなく呟かれた言葉は空気に溶け込んで消えた。





苛々。苛々。
何でこんなに苛々するのか解らない。
メアリーが秘密を作るくらいなんだ?

僕だって秘密はある。
なのに、何故 こんなにも苛々するんだ……。



ジェイドって、メアリー好きだろ?


頭の中でピオニーの言葉を思い出す。



「……まさか……」



思わず走る足が止まった。


考えれば考える程
ピオニーの言葉を認めざるを得ない状況に陥ってる。



なら いつから?
メアリーとの想い出を振り返りふと、気が付いた。


あぁ……もしかすると…
僕は……



「ジェイド!」


「…!メアリー………」


「はぁ…はぁ……やっと追い付いた…っ」


腕を引かれて自然と体が傾く。
僕の視線の先にはメアリーが居た。


「ごめんね、ジェイド。」


「……、別に良い。」


「私ね…、生物レプリカの研究をしてたの。」


「!!………どうして」


驚いた。
僕以外にも生物レプリカを研究してる人がいたなんて。
それもメアリーが。


「前に、レプリカ研究を知ってから…レプリカがどんなモノか知りたかった。
もっとも結果が解りやすいレプリカが、生物に転用したものだったの。」


「…あぁ」


「生物レプリカは、無理なのよ。理論は上手くいく。だけど、それは見た目だけなの。」


「………」


「中身は別人なのよ。だからレプリカ技術は……禁忌よ、ジェイド」

メアリーの瞳はいつになく真剣で、逸らせなかった。
メアリーがレプリカを知ったのはもしかしたら ネフリーの人形を複製した時かもしれない。



複製品を見て頭の良いメアリーはレプリカだと気が付いた。
そして それを自ら研究して
レプリカ技術は禁忌だ、と…


だけど
それはメアリーの考えだ。

僕には禁忌だ、とは思えない。






「……。メアリー、僕は、魔物を殺してレプリカを作ってる。けど、何も問題はなかった。レプリカ技術は禁忌じゃない。」



これは事実だ。
レプリカの魔物もオリジナルと同じように行動した。
つまり中身は変わらない。


「………ジェイドがそう思うなら…私は何も言わない。ただ覚えておいてねジェイド。」


「何を?」


「たとえ"誰か"のレプリカを作っても……、その"誰か"は、もう別人なのよ。」




そう言って 悲しそうに笑ったメアリーの表情を
僕は決して忘れる事が出来ないだろう。


それにこの時はまだ、
知らなかった。


メアリーと離れる事になるなんて…――――――。


馬鹿な僕は
メアリーの言葉の意味も何も理解してなかったんだ。



僕がメアリーの言葉を理解出来るのは遠くて近い未来の事…―――――




<To be continued>
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