私にとって初めての街の外。
初めての戦闘。



初めて、だらけの私。
戸惑いながらも進めば見えたのは……
生きるタメの希望の光―――。


初めての戦闘






「メアリー。」


いつも通りの授業中。
不意に呼ばれた名前にメアリーはジェイドの方を振り返る。
(あの日以来、ジェイドは授業中も私を呼び捨てにするようになったのよね。)


ジェイドは自分に近寄って来るメアリーを見て ペンを机に置くと、話しを切り出した。



「今日、街の外に行こうと思ってる。メアリーも来るだろ?」


「…良いの?」


「あぁ。」



正直、この誘いは願ってもないものだった。
エクソシストである私は、身体を駆使して闘うのが仕事のようなもの。
確かに私は、副室長をやっていたりもしているから頭を使う仕事も生業とできる。
だけど、私にはエクソシストとして闘う事の方が合っているんだ、と此処でネビリムさんを手伝っているうちに感じるようになってきていた。



「ありがとう、ジェイド…」


御礼を言えばジェイドは照れているのか横を向きメアリーから目を反らした

「ふふ…。じゃぁ、ジェイド、また後でね?」


「終わったら、家の前で三人で待ってる。」


席を離れる間際に聞こえた声に
メアリーの顔が緩んだのは、きっと気のせいじゃない。







「今日はここまで。」



ネビリムさんの言葉を合図に机に向かって勉強に勤しんでいた子供たちは気が抜けたように ぞろぞろと帰路へと着き始める。

その中には勿論 ジェイドやサフィール、ピオニーも居た…けど、この三人は家の前で私を待つ筈。

私も急いで準備しなくちゃ いけないわね…。




「メアリー、ちょっと…」


「ぁ、はい!」


部屋を出ようとするとタイミングよくネビリムさんに止められて 私は内心肩を落とし 逸る気持ちをおさえてクルリ、と踵を返す。


「メアリーに教えておきたい事があるのよ。」


「私に、ですか?」


「えぇ。この世界での戦闘方法について。ジェイド達と街の外に行くんでしょう?」



「!」


「ふふ、サフィールが嬉しそうに話してたから。」


私が不思議に思った理由をネビリムさんは感じ取ったのか言葉を付け足した。
そして 音素について簡潔に、だけど詳しく教えてくれた。








「待たせて、ごめんねっ?」


ネビリムさんと別れて小走りで家の前に行けば何が合ったのかサフィールは雪に埋もれて
その状況をピオニーが笑いジェイドに至っては我関せず、といったような状況だった。


「……メアリーも来たし、行こう」


「おう、そうだな!」


ジェイドの一言でピオニーは歩き出すけどサフィールはそのまま。
スタスタと進んでしまう二人に軽く溜息を吐いてサフィールを掘り出す。


「さ、サフィール。行きましょう?」


「う、うん!」


手を差し出せば戸惑いながらも握ってくれて…
私とサフィールはずっと遠くに行っしまった二人を追い掛ける為に走った。









街の外。
はっきり言って 吹雪のせいで離れた場所が見えないくらいに視界が悪い。
近くにいるピオニーとサフィールは辛うじて見えるのにジェイドの姿が全く見えない。




「そういえば、ジェイド……。何の為に街の外に…?」


「実験台が欲しかったんだ。」




多分、前方に居るだろうジェイドに問い掛けたのに後ろから声が返ってきた。


いつの間に 私達が前にいたのかしら……?



首を傾げて悩んでいると横からピオニーの叫び声が……




「うわっ…!?」


「!ピオニー?!どうしたの?」



それに続いてサフィールも叫ぶ。



何かしら……嫌な気配がするわね。

でもピオニーが叫ぶ程近くには居ない。


なら、ピオニーは何に叫んだのかしら…?



「おー……びびったー……。穴があるぜ?ここ。」


「穴?」


穴という単語に反応したジェイドが こちらへ歩いてくるのが音でわかる。

せめて この吹雪が止めば楽なんだけど……。







「この穴…魔物の巣だな。」


暫く穴を観察していたジェイドは立ち上がり辺りを見回し始める。


「何処にいるんだ?」


「魔物の巣なの!?」


「へー、魔物かぁ。どんなだろうな?」


各々に口にする言葉は 彼らの性格を表していると思う。


「メアリー、」


「……ジェイド」


「近くに魔物がいる。」


「えぇ。解ってる。」


ジェイドの雰囲気が変わった。
きっと近くにいる魔物のせい。
私はピオニーとサフィールを守るように立つ。



ピオニーとサフィールにも
この緊迫とした空気が通じたのか二人は身を寄せて黙り込む。




「……来た!」


ジェイドの言葉と同時に
目の前には 大きな白い木のような魔物。
(あとで名前調べなくちゃ…)



「…メアリー、怖いよぅ!」


サフィールが泣きそうになってるのが声で解る。
だけど今は構ってあげられない。
ジェイドが詠唱を始めた今。
私のやるべき事は時間を稼ぐ事。



そうと決めたメアリーは颯爽と魔物…スノウトレントへと駆け出した。






「月影の舞姫…発動…!!」




メアリーのその言葉と同時に光が集束し剣の形へと生成される。
それがまだ剣へと成り切る前にメアリーはスノウトレントへと振り下ろす。


ザンッ!と軽快な音はしたものの スノウトレントにはあまり効いていないように見えた。


「ちっ……、やっぱり、あまり効かないみたいね……」


「メアリー!下がれ!……フレイムバースト!!」


次の一手をメアリーが出そうとすればジェイドの譜術が完成した。
バックステップを使い離れれば火柱が上がりスノウトレントは怯む。


だが怯んだだけであり死んではいない。
それが解ると すぐにメアリーは剣を振り上げた。



「火焔 紅蓮焼破」



剣が炎を纏いメアリーの傍に小さな人影が現れる。
それからは早かった。


炎を纏った剣でメアリーは連続で切り込み巨体を吹き飛ばす。
そこへ 再びジェイドの譜術が発動し スノウトレントは音素となった。




「……す、すげぇー…」



シンと静まり返った時 響いたのはピオニーの声だった。
感動したのか 蒼い瞳はキラキラと輝き 両手の拳を胸の前で握っている。


「そのメアリーの隣で浮かんでる小さい人間、なんだ!?」









興奮したように口を開いたピオニーにメアリーは微笑みを浮かべて 小さな人間−精霊について説明した。


彼は火の精霊の焔(ほむら)で第五音素を使う時に召喚し、
彼らのような精霊は他にもいるのだ、ということを。



「第五音素だから火の精霊か…。なぁ、メアリー。もしかして、その焔って精霊は音素集合体、じゃないのか?」


「って事は、他の精霊さんも音素集合体ってことなの!?ジェイド?!」



「あぁ。可能性としてはある。」


「へー、凄いね!メアリーさん」


結論を出して納得するジェイドとサフィール。
ピオニーは難しい話しは嫌いなのか焔と会話をしている。



「焔が音素集合体…?」


「その可能性、がある」




一方 私はジェイドに言われた事に ただただ呆然としているだけだった。



<To be continued>
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