大事に大事に扱ってきた人形。



だけど
不意な事でソレはいとも簡単に壊れてしまった。




想いとすれ違い



今の時期のケテルブルクには珍しい良く晴れた日。
雲一つ無くて、こんな天気こそ快晴と言うべきか…洗濯をするには調度良い。
メアリーはそんな事を思いながら、洗濯物を片付けていく。



「これで最後、ね」


皺を伸ばすように洗濯物を叩き最後の一枚を干して終わった、と大きく伸びをする。




「メアリーっ……」


ぐぐっ、と伸びきった時に名前を呼ばれて振り向けば
ポニーテールを乱しながら慌てて走ってくるネフリーの姿が見えた。


「ネフリー?」



「助けてッ…メアリー!」



近くに来るなり腰に抱き着いたネフリーの背中を撫でて少し落ち着きを持たせれば涙で一杯になった瞳と視線が交わる。



「ネフリー、何が合ったの?」


いつも落ち着いた様子のネフリーがこうなったんだから
何か穏やかじゃない事が合っただろうと判断しての問い掛け。



「ぅっ…お兄さんが…」

それに安心したのか、それとも恐怖を思い出したのか
とうとう涙を零したネフリーは
手に持つ人形をメアリーに見せた。



「この人形……」


この人形はネフリーがとても大事に扱っていた人形の筈…。
見たところは、何もなってないけど…


「…これ、私はとても大切にしてたの…」


「…えぇ、知ってるわ。」



「なのに、壊れちゃって……」







ネフリーの言葉に自分の耳を疑う。

彼女は今、壊れたと言った。

だって、可笑しいでしょう?
この人形は壊れてなどいない。
少し年月を感じさせる小さな傷など
ネフリーが大事にしていたものと何一つ変わらない。


「ネフリー、これは貴女が持っていたのと何一つ変わらないでしょう?」


「違うの!」


私の言葉に首を大きく振って否定するネフリー。

このままじゃ 埒があかないわね…。


「…解ったわ。ネフリー。私の部屋に行きましょう?」



そこで話しを聞くわ。
そう言えばネフリーは納得して私に手を引かれてやっと部屋へと進んでくれた。



部屋について まずネフリーに
紅茶をいれる。
リラックスしながら話さないときっとまた泣いてしまうし、今のネフリーは ジェイドに何らかの恐怖心を抱いている…。
そう感じたから。



「さぁ、ネフリー。ゆっくりで良いから話してくれる?」


「……うん」


紅茶を一口 口に含んでからネフリーは頷き、机にふたつ人形を置く。
ひとつは いつもネフリーが持っている人形。
もうひとつは、同じ人形…だけど修復が不可能なくらいに壊れている。



「これは……」


「私……、人形を壊しちゃったの…。それで泣いてたら、お兄さんが…――」





「うわぁぁん……っ」



「ネフリー。どうしたんだ?」



「お兄さ…っ…人形…壊れちゃった……の…!!」



ボロボロと涙を零すネフリーの手には壊れた人形が。
それを見たジェイドは 少し考えるそぶりを見せて やがてネフリーの手に収まる人形を持った。



「ネフリー。この人形、僕に貸してくれないか?」



「ど、して…っ?」



「僕なら、この人形を直せる。」



「ほんとっ!?」


「あぁ」



自信があるジェイドは軽く微笑んで頷いた。
その兄の姿を見たネフリーは大事な人形が直るなら、と人形を渡したのだ。



「ネフリー」


「お兄さん!直せたの!?」



あれから一時間程度、部屋に篭りきりだったジェイドが出て来た事にネフリーは期待を募らせて駆け寄る。



「ほら、これで元通りだろ?」



「わぁっ…!ありがとう!お兄さん!」



ジェイドに人形を渡されたネフリーは喜んだ。
だが その人形が大事な物だったが故に気が付いてしまった。




この人形は見た目は同じだが直した形跡が無い、と。



買いに行くには、自分がいたリビングを通らなければ外には出れない。

つまりこの人形は新品でもなければ 自分の物ではないのだ。



疑問を感じてしまったネフリーはジェイドが出掛けたのを見計らい彼の部屋へと足を運んだ。



そして見付けてしまった。

何か特別な譜陣だろう形跡と壊れた人形を。









「怖くて、私はメアリーのとこまで来たの。
お兄さんは…悪魔よ…っ!」


「ネフリー……」


自分の兄を悪魔、といい
ネフリーは人形をきつく抱きしめる。
見兼ねたメアリーはネフリーの隣に腰を降ろしあやすように彼女を抱きしめた。




「ねぇ、ネフリー。ジェイドはネフリーを悲しませたくなかったんじゃないかしら。」


「……どうして…?」


「大事にしてた人形が壊れて、直らないって解ったらきっとネフリーは悲しむから……。そう思ってジェイドは新しい人形を買うわけでもなく、ネフリーが大事にしてた人形を複製したんじゃない?」


「……でも…」


「ジェイドは頭が良い子で大人びてる。だから、こんな方法しか思い付かなかったのよ。」


「……うん…」


「ジェイドを嫌わないであげて?ジェイドはあんな性格だけど、ネフリーや皆の事とても大切にしてるのよ。」



言い終わるとメアリーはネフリーを離し微笑んだ。
ネフリーも先程までの恐怖に引き攣った顔ではなく 心からの笑顔を浮かべる。



「メアリー、ありがとう…!」



「どういたしまして。」



問題も解決して
和やかな雰囲気が 二人の間に訪れた。



<To be continued>
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