出会った皇子は
噂とは掛け離れた雰囲気で



私もジェイドも圧倒されてばかり。



噂は宛にならないわね…。


新たな仲間

「ジェイドぉ!ねぇってば!」


「五月蝿い。ついてくるなよ。」




そう言いながら歩く二人の少年。目指す場所は ネビリム先生の家。
ただ、用事があるのはネビリム先生ではなく ある女性。




「……ジェイド!!待ってってばー!!」


「だから、五月蝿い。」



同じような事を繰り返し漸く目的地に到着。
あの馬鹿との無駄なやり取りが無くて僕だけだったら
もっと早く到着できたのに。


後で何かしらの実験に付き合わせよう。



「ジェイド、物騒な事は考えたら駄目よ?」


「!メアリー…、何が?」


「今、あくどい笑い方してたもの。何か考えたんでしょう?」



メアリーは不思議な奴だ。
気配を感じさせないし、何か独特の雰囲気を持ってて、
一ヶ月くらい前に違う世界から来たのに いつの間にか僕達の輪に入っていた。

違う。
いつの間にか、じゃなくて最初からだ。
サフィールはともかく僕でさえ、メアリーに引き付けられていて……。
気が付けばメアリーは僕達の中心にいる。

今だって
些細な僕の表情の変化に敏感に反応してた。



「ジェイド?」


「あ、あぁ…解った。」


「ふふ。あ、そうだわ、ネビリムさんに用事でしょう?」


すぐ呼ぶわね、と言ってメアリーは家へと戻ろうとしたけど
僕が腕を掴んで止めた。


「用事があるのはネビリム先生じゃなくて、メアリーにだよ。」






ネビリムさんを呼ぼうと
家に入ろうとすればジェイドに引き留められた。
何でも 用事があるのはネビリムさんにじゃなくて 私に、らしい。


「私に…?」


「あぁ。」


「あのね、メアリーさん!ケテルブルクの外れにある屋敷を知ってる?」


「屋敷…って、あの誰も住んでいない?」


サフィールの言う屋敷は無人の筈で、話題にあがる程のものでもない。
しいていえば、敷地が広いくらいかしら…?


「それがね、昨日の夜に病弱の皇子が療養の為にあの屋敷にお忍びで来たらしいんだ!」



「病弱の皇子様…?」


サフィールの言葉を反復すれば
彼は大きく頷いてジェイドを見た。


「だから僕達、その皇子に会いに行こうって話したんだ!」


「メアリーも一緒に行かないか?」



ジェイドとサフィールからの誘い。
勿論 私がそれを理由もなく断る筈もなく…


ネビリムさんに外出することを伝えて私はコートを羽織ると
二人と一緒に街外れまで向かった。






「どうやって皇子様と会うつもりなの?」



あれだけ会うんだ、と自信あり気に言ってたから何かしら会う手段があると思ってたのに
今、私達は草むらの陰に隠れて皇子様に会う方法を考えている。


まさか何も考えてないなんて…。予想外だったわ……




「見張りが沢山いるよぅ、ジェイドー…」


「…見張りを一点に集中させれば良いんだよ。」



困っているときにジェイドの一言。
この状況を打破する方法があるらしく、彼はニヤリと笑う。


「ジェイド、どうやって見張りを―――」



ドンッッ!


私がどうするのか聞こうとした途端、目の前を銀色の塊が横切った。
恐る恐る 銀色の塊の正体を確認しようとすると先程までの悩みの種だった見張りがその塊を囲んだ。



「何者だ!?」


「侵入者だ!捕らえろ!」


「ぼ、僕違うよ!うわぁぁぁん!」



「さ、サフィール…!」


「メアリー、今のうちだよ。」


サフィールを助けようと立ち上がるもジェイドに腕を引かれ、見張りに見付かる事もなく私達はその場を後にした。




サフィールを囮にして上手く屋敷に侵入できた私とジェイド。
(ごめんね、サフィール…)


ジェイドは辺りを見回しながら例の皇子様を探しているけれど、私はさっき捕まってしまったサフィールが心配でそれどころではなかった。



「屋敷の人間も、皆あの馬鹿のとこに行ったみたいだ。」


ポツリと呟いたジェイドの言葉に私の不安は募るばかり。


「ジェイド…、サフィール…どうなったかしら……」


「あの馬鹿なら大丈夫だろ。どうにでもなってるよ。」


「ジェイド…!」


少し怒気を含んでジェイドの名前を呼べば彼は私を見て小さく 何かを口にした。


「?ジェイド、何て言ったの?」


「…別に。」

よく聞こえなくて問い掛ければジェイドは あからさまに視線を避けた。


「あの部屋じゃないか?」


「…、あ……そうね、」


もう一度 何を言ったのか聞こうと口を開けばジェイドが部屋を見付けたのでそれは叶わなかった。
その部屋はあからさまに他の部屋と扉が違っている。
開けようと近寄れば中からその扉は開いた。


「ん?お前達……」


立っていたのは健康そうな褐色の肌に金の髪と蒼眼を持ったジェイドと同い年くらいの少年。


「あ、あの…私達は…」


「お前達か?さっき侵入してた奴の仲間は。」


「あぁ。」


「ははっ!お前達、面白いな!気に入ったぜ。」

どう誤魔化そうか考えていた時 ジェイドはあっさりと事実を認めた。
その潔さがどうやらお気に召したらしく少年はニカッと歯を見せて笑い私たちに握手を求めた。







「俺はピオニー。お前達は?」


「僕はジェイド。」

「私はメアリーよ。」


「メアリーにジェイド、か。二人は何の為にここに来たんだ?」

「噂の皇子を見に。」


ピオニーの質問にどう答えるか迷っているとジェイドはまたもあっさりと答えた。
その答えにピオニーは声を出して笑いだす。


「あ、はははっ!成る程っ…!確かにこの屋敷に来る理由といや、泥棒か俺に会いにくるか、しかないな!」



ピオニーの言葉が何か引っ掛かる。そう、泥棒か俺に会いに…?
だって それじゃぁ、まるでピオニーが皇子様みたいじゃない?

ジェイドを見れば同じ事を思ったのか私を見て頷く。
とりあえず、確認ね。


「ねぇ、ピオニー。ピオニーが噂の皇子なの?」


「あぁ、噂が何かは知らないが…俺が皇子だ。」


「…噂って宛にならないのね…」


そう呟けばピオニーは噂に興味を持ったのか話してみろ、と言った。


「病弱で療養の為にケテルブルクに来たって噂だよ。」



ピオニーの疑問にジェイドが答えると彼はまたケラケラと笑い腹を抱えた。



「俺が病弱!?有り得ないな!」


「えぇ…、確かにそうね…」


暫く笑い続けたピオニーに私達はそろそろ帰ると伝えると


「また来いよ!今度は正面から入れるようにしとくからよ!」



そう言って見送ってくれた。



「ねぇ、ジェイド…ピオニーとは仲良く出来そうね。」


「………あぁ。」


皇子ピオニーは
噂とは 180度違う少年だったけれど
これから仲良くやっていける。

そんな確信に似た気持ちを私の中に芽生えさせてくれた。





<To be continued>
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