54


人はすべてが『嘘』だと知った時どうなるのだろうか。
狂ってしまうのだろうか。
壊れてしまうのだろうか。


「――君はすばらしいものを見せてくれたよ」


腕の中で涙を流す少女を強く抱きしめる。
ふと、後ろの方で5人の気配がした。


「――はあ、散々ですよ。赤司くん」


「そうなのだよ。付き合わされる身にもなれ」


「あはは、ごめんね。テツヤに真太郎。でも楽しめただろう?」


汚れ一つついていない彼らが、ため息をついた。


「楽しめたっスけど……俺らを何も言わずに巻き込まないでほしいっス」


「やるときは、一言言えよ」


涼太と大輝の言葉にくすりと笑みがこぼれた。


「ごめんごめん。その方がリアリティが増すだろう?」


「まあ、でも楽しかったからね」


「そう、それはよかった」


5人とも満足はしているみたいだ。
さて、さて現実にでも戻ろうか。


「全部全部、偽りで嘘だったけど、名前への愛はすべて本物だ」


軽く触れる程度のキスを唇に贈る。
すると、くすぐったそうに名前が動いた。


「馬鹿で愚かでいじらしくて、それでいて可愛く愛しい名前」


杖を、3回地面に叩く。
刻みのいい音を立て、この世界が壊れていく。
僕の創った『嘘』が音を立て崩壊していった。


「……まあ、本物もいたけどいいか。だって、僕が言えば全てが『嘘』になるから」


見つめる先には名前の血縁者である日嗣がいた。
もう、息もしていないが。
それでも僕ら7人以外の唯一の『現実』だった。


「だけど、『現実』ではいらない邪魔な存在だったから消せて丁度良かったよ。もう、二度と君の面は拝みたくないね」


崩れていく世界。
崩れていく『嘘』。
その中で『現実』だったものが『嘘』へと変わる。


「名前には僕らだけがいればいいんだよ。僕らだけが、ね」


そして世界は暗転した。


[*prev] [next#]