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大輝に向かって振りかざして、下ろした。
そして、斬った。


斬った。


斬った、はずだった。


「……えっ」


大輝は灰になって消えていく。
そして慌てて見ると、周りの涼太も敦も灰になって消えていっている。


「――――!!!まさかっ」


嵌められた。
いつから嵌められていたかは知らないが、全て嵌められていたのだ。


「はあ、はあっ……」


今の一撃に精神を使ったせいか、体力がもうない。
それにプラスして、大輝の銃弾のせいもあり立っているのがやっとだ。


「くっ、そ……」


剣を力強く握る。
全てが嵌められていたなんて。
灰が積もった一点を見続ける。
もうすでに、月は空高く昇っていた。


「今日は、満月、か……」


そう言って、剣を持ち直し灰を斬る。
意味もなく、灰を斬っていた。


「はあっ、はあっ…」


息切れが激しい。
肩で呼吸するしかできない。


「げほっ、…はあ、ふざけてるっ」


お腹からは血が出ているし。
体力もない。
その時、一瞬月が雲に隠れた。


「みーつけた」


のうのうとした声が当たり一面に広がった。
聞き覚えのある声に緊張が走る。
ああ、さっきの大輝たちは彼の仕業だったのかと勝手に納得した。
私は、剣を強く握り締め、振り返る。


「名前、見つけたよ」


「っ!」


振り返った先の彼の手には、一本の杖が握られていた。
杖以外で武器になるものは、見当たらない。


「大人しく捕まれば、足を切り落とすだけで許してあげるよ?」


雲に隠れていた月が顔を表す。
彼の表情は、逆光のせいで分からない。
だが、笑っていることだけは分かった。


「…っ、私は、自由になりたくて逃げたっ」


声は、震えてはいたが、芯の篭った声になる。
私の血だらけの服と顔に彼は気づく。


「かわいそうな、名前。こんなに汚れてしまって…それは、名前の血?」


私は唇を噛みしめるだけで答えない。
これが、もし私の血だったら、彼はすぐさま傷つけたやつを殺しに行く。
もし返り血だったら、この返り血の主を探して、跡形もないほどぐしゃぐしゃにする。
だから、私は口を閉ざしたまま彼を真っ直ぐ見た。


「……もう、解放、してよ」


代わりに言った言葉は、思ったよりもか細くなった。
一滴、瞳から涙が落ちた。
拭うことなんてしない。


「君を解放するはずない。どこに行こうが、捕まえて閉じ込めてたくさんの愛を与える」


その愛がひどく重いものだった。
もう、嫌だ。
だから逃げ出したのに。
彼はわかってくれない。
私は、剣を強く握りしめた。


「…だったら、私はここで死ぬ。自分で殺す!!」


覚悟を決め剣を抜く。
彼の瞳は相変わらず強い意志を持っている。
綺麗な瞳だと思った。
そして、血飛沫が舞う。


「馬鹿で愚かな名前」


彼が、にやりと笑ったのを眼に焼き付けようと思った。


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