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その声はもうすでに諦めていた声だった。
「……知ってる?」
「ああ。もう、最初から知ってたさ」
不安な瞳に震えた手。
その手で必死になって掴んだ服。
未だに覚えていた。
「知ってたんだったら、私を逃がせばよかったのに。私を殺せばよかったのに」
「ははっ、何言ってんだ名前」
「なにって、」
「お前が俺のことが嫌いなんて最初っから知ってたさ。だけど、俺はお前を愛している。だから、殺さずに生かしているんだ。殺したら元も子もないだろ?」
名前は、目を細めた。
「最低、だね。大輝」
「……もう汚れちまってるからな」
吐き捨てるように言った青峰を名前は未だに睨んでいた。
「(さて、これからどうする。1対1とはいえ、大輝だ。どうやっても勝てっこない)」
「だから、名前」
「何」
青峰は、ニヤリと笑い口を開いた。
「お前に選ばせてやる」
「……随分、上から言うね」
「当たり前だろ?今この状況は、どう見ても俺が上だからな」
名前は内心、舌打ちをし青峰を促した。
「俺に捕まるか、逃げるか。前者には幸福を後者には自由が与えられる」
「……その選択、答えは決まってるよ」
「さあどうする?名前。後者を選ぶと死という名の自由に行けるが?」
名前は剣を握りしめた。
そして、覚悟を決める。
「私は、私は……」
「――――」
青峰が、口を閉ざす。
そして、名前が言う答えが分かっていたかのように哀しそうな瞳をした。
「私は、自由になるの!!!死じゃない、生きて自由を得るんだ!!!」
名前は、青峰に向かって駆け出した。
剣を握りしめ、青峰の弾が貫通したお腹を気にしつつも前へと向かった。
「…………全て知ってたぜ、名前」
目の前の青峰は避ける気もないらしい。
もう、すでに名前は残り1mのところまで迫っていた。
「さよなら!大輝!!!」
力のこもった剣を振りかざした。
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