02


後ろを見ると誰も来ていない。
良かった。
すぐには追いかけてこない。


「……これからどうしよう。私、行く場所ないしな」


「――あれ、どうしたんだい?」


「…え?」


目の前には、優しそうなおばあさんがいた。


「まあ、あんた傷だらけじゃないか!ウチにおいで!」


「…あ、はい」


そのおばあさんは、私を無理やり引っ張り、家へと連れて行ってくれた。


‐‐‐‐‐‐


「ほら、これをお飲み」


家へとついて差し出されたのは、温かいミルクだった。
その温かさに、涙があふれた。


「ちょ、泣いちゃって!…この家には、いつまででも居てもいいからね」


「っ、あ、ありがとう、ございます」


「うん」


涙を拭ってお礼を言うと、おばあさんは優しい笑みで微笑んでくれた。
その裏表のない笑みは、久しぶりに見る笑顔で。
私が、軍に囚われてから見ることの出来なかった笑顔だ。


「あ、のっ」


「なんだい?」


「わ、たし、不破名前って言います。出来ることはするので、お、お願いします」


勇気を出したぞ、名前!
自分でもがんばった!


「…名前って言うのね。いい名だわ。私は、静音と言うの。静音おばあちゃんとでも呼んでくれたら嬉しいわ」


優しい手つきで頭を撫でられた。
その行為に顔が赤くなる。


「静音おばあちゃん…」


「ふふ、孫が出来たみたいだわ」


静音おばあちゃんは、早くに旦那を亡くし、子供も出て行ったらしい。


「…最近出来た軍は、非道の集まりだって聞くわ」


静音おばあちゃんは、私のことはあまり聞かない。
私は、それに甘えてるな、と思う。
そう思っていたときの一言で、体が反応した。


「…そう、なんですか」


「ええ。今の元帥の赤司征十郎、だったかしら。あの人は、実力主義者で人を殺すのもなんとも思わないらしいわ」


その通りだ。
彼は、傍若無人、絶対的な人だ。
彼の命令は絶対。
反抗する人は、片っ端から殺す。
そんな人だ。


「…名前、あなたはそんな軍に捕まらないようにね」


その笑みが、私をひどく突き刺した。
もう、遅いのに。
何もかも遅いのに。
私は、その軍から逃げたのだ。



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