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大輝の銃口から弾が放たれる。
だが、私は前にいる涼太の剣からも逃れなくてはならない。
さて、どちらを避けようか。


「チッ」


舌打ちを無意識にしてしまうくらい、最悪な状況だ。
ちらっと見えた敦は、お菓子をのんきに食べている。


「(…どうする、)」


そんな迷っている時間がないことは私にもわかっている。
ああ、もう!!!


カキンッ


剣が交わる音と同時に、血が噴き出るのが分かる。
何かが肉を破りながらお腹に侵入してくるのも分かる。


「あーれ、まさか俺を選んでくれるとは思わなかったっスよ」


にこりと笑いながら言う涼太。
真っ赤のワンピースがもっと真っ赤に染まるのが分かる。


「ほんとに、もうっ!!!」


涼太からいったん離れる。
弾が入ったところから血が流れ出るのを手のひらで感じる。


「大輝…」


「まさか、お前が俺の弾を避けねーとは思わなかったぜ」


口をあげて笑う大輝を睨む。
大輝はそれを何とも思ってないように見える。


「―――やっと、俺を見たな」


かつん、と静かな住宅街に靴音が響く。
それは、大輝が一歩近づいてきた証拠でもある。


「来ない、で」


「はあ?何言ってんだよ」


靴音が近づくたびに、心臓が高鳴る。
血がどくどくと流れていくのが分かる。


「俺、お前にずっと会いたかったんだぜ?あの日からな」


「…私は逢いたくなかったよ」


もう、一生。
ずっと。


「それで?この状況なら、お前のすることはただ一つだろ?」


「…なに、よ」


「何ってなー…」


そこで敦が口を開いたのが見えた。


「名前ちんが大人しく俺らに負けを認めることだよー」


紫の瞳が私を見る。
その瞳から私は動けないでいた。


「早く捕まった方が身のためっスよ」


私のため?
そんなはずがない。
私は嫌だから逃げ出したのに。


「……は、」


「ああ?」


「私は、もう君たちに失望したんだよ!!!」


はっきりとした拒絶だった。


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