42


どこかで、発砲した音が聞こえた。


「―――――っ!!!」


その音に、抱きしめられていた私は一気に現実へと戻された。


「名前?」


「っ、私、もう行かなきゃ!」


「は?え?」


テーブルの上に置いてある剣を持つ。
日嗣は慌てて私の腕を掴む。


「どこに行くんだよ!まだ怪我も完治してないんだよ!?」


「っ、それでも、行かなきゃ。そうしないと、私っ」


「どういうことだよ、説明。してくれる?」


日嗣の海のような青の瞳が真っ直ぐ向けられる。
その真っ直ぐさに私は視線を逸らせることしかできない。


「―――私、軍に囚われていたの」


「―――っ!!」


「そこが嫌で、抜け出して今は幹部の奴らに追われている状況なの」


「な、にそれ…」


「今日初めて知ったよ。今まで一緒にいた幹部の奴らが私と日嗣の一族を殺してたなんてね」


「っ、名前っ」


剣を見る。
いつも一緒にいた剣は、泣き出しそうだった。


「今までは心の中で彼らのこと愛せてたけど、許せてたけど。もう、許せなくなったな…」


愛していた。
それは事実だ。
だけど、日嗣の話を聞いてそんな感情は消えた。


「名前、」


「だからね、私。彼らとちゃんとけじめをつけるよ。このゲームを利用して」


「ゲーム…」


「うん」


青の瞳が伏せられる。
綺麗な黒髪がなびいた。


「――ねえ、日嗣」


「なに?」


「生きて」


「え?」


「生きてね」


私は、床に思いっきり剣を突き刺す。
力によって地面へと戻っていく。


「名前!!!!」


最後に見えたのは、目を見開いた日嗣。


「―――私の家族に、会えたんだ」


それだけで十分だった。
それだけで生きてきてよかったと思った。


「もう、思い残すこともないな」


このまま、死んでしまおうかとも思う。
だけど、静音おばあちゃんとの約束が思い出される。


さて、戦いを始めますか。


[*prev] [next#]