37
血が止まらない。
急いで止血しなくてはならない。
「…やっと逃げ切れたけど」
次は殺されるかもしれない。
だって彼ら二人は本気で来ていた。
「さて、これからどうしようか…」
暑い日差しが照り付ける中、大きな木を見つけ背を預ける。
木陰が涼しい。
「ああ、このまま息絶えてしまえば楽かな…」
空を見上げると、嫌になるくらいの青い空が広がっており、唇を噛みしめた。
そのときふと、気配を感じた。
「――――ねえ、」
ふわりと深い海のような匂い。
「っ!」
「ねえ、ひどい怪我。大丈夫?」
綺麗な黒髪に綺麗な海のような深い青の瞳を持った青年だった。
「ねえ、ちょっと聞いてるの!?」
「あっ、え、うん。聞いてる…」
私と同じくらいの年だろうか。
彼の見せる表情は年相応に見える。
「怪我、ひどいね。見せてよ」
彼は、無理やり私の背を見る。
そして、小さく舌打ちをしたのが聞こえた。
「ちょっと、おいで」
「えっ!」
ぐいっと腕を引っ張られたかと思ったら、体は地面を離れ彼の腕の中に納まっていた。
顔の近くに彼の肩口が見えた。
彼の匂いに懐かしさを覚えた。
「なっ…!!!」
「ちょ、暴れないでよ。僕の家で治療するだけだから。それにしても、軽すぎ。ちゃんと食べてんの?」
お姫様抱っこをされており、細いと思っていた彼の腕は意外と力があるようだ。
「―――最近、」
よく考えると、運動も何もしていない。
食べることには昔から興味がなかったから、静音おばあちゃんの家でもあまり食べていなかった。
軍にいた時は、週に数回は中庭で訓練していた。
「…その様子じゃ食べてないらしいね。筋肉もあんまりないし。なのに、こんな立派な剣を持ってるしね。血も付着してるけど?」
綺麗な深い青の瞳に見つめられる。
その視線にいたたまれなくなり、逸らす。
「――まあ、君の傷や剣について疑問はあるけど後で聞いてあげる。だから、少しの間でいいから眠りなよ」
その声に従うように、私は瞳を閉じた。
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