36
目の前に迫ってくる銃弾。
真太郎が放った弾だから、避けることは不可能。
「(ああ、このまま死ねたらいいのに…)」
抵抗をすることを諦めて、目をつぶる。
その刹那だった。
『がんばってきなさい。私はここであなたの帰りをずっと待っているわ』
ふと、静音おばあちゃんの言葉が思い浮かんだ。
「(あ、そっか。私、静音おばあちゃんと約束したんだ…)」
約束守りたいな…
また、会いたいな。
「―――名前、」
誰かが私の名前を呼んだ。
顔すれすれに、弾が通った。
「―――え、」
当たると思っていた弾が外れたことに驚いた。
「…真太郎、なん、で…」
真太郎の表情を見る。
だが、下を向いていて見れなかった。
「…は、俺も全く愚かなのだよ…名前の付けた傷のせいで…」
よく見ると、真太郎の腕が震えているのが見えた。
「……ほんと、ひどいね」
誰かに向けた言葉ではないけど、口から出た。
「(――これはチャンスだ。これを期に逃げよう)」
私は、目の前で倒れているテツヤが動けない状態なのを確認する。
「(よし、行ける)」
私は、剣を地面から抜きもう一度地面に突き刺す。
そこから起きる地割れを応用し、地面に穴を掘ってできるだけ遠くに逃げることにした。
「バイバイ、テツヤに真太郎…」
見えなくなった二人に、私は言葉を紡いだ。
もう、二度と会いたくないよ。
――――――
誰かが、ため息をついた。
「―――よく似ていますね」
目の前にいる自分に、冷めた瞳で見つめた。
「当たり前だろう?僕を誰だと思っている?」
「赤司、お前の能力だろう?」
「あはは、そうなんだけどね」
緑間がため息をついて言った。
赤司の隣にいる、黒子と緑間は傷一つついていない。
目の前に倒れている自分の分身に顔を歪める。
「自分が目の前にいるのは気持ち悪いので早く消してもらえませんか?不愉快です」
「名前に傷つけてもらったんだぞ?」
「僕自身じゃないので不愉快です」
「…そうか、」
赤司が杖を1回地面を叩く。
すると、目の前にいた血だらけの黒子と緑間は灰となって消えていった。
「勿体無いな……」
「―――何がなのだよ」
「さあ?」
赤司が見つめる先は、名前が立っていた場所に付着していた名前の血だった。
[*prev] [next#]