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それは、確かに現実だった。


「さあ、名前、手を」


私と真太郎から流れ出る血の匂いでむせ返っている。
目の前には私に手を差し出すテツヤ。
そして私に銃口を向けたままの真太郎。


「―――テツヤ、」


名前がひどく愛しく感じた。


「……テツヤ」


はっきりと名前を呼んだ。


「ごめん」


ザシュッ…!!!


肉を切る感触を手で感じた。
目の前で、哀しそうに揺れる空色の瞳。


「黒子っ!!!!」


真太郎が目の前で倒れ行くテツヤのことを呼んだ。


「―――私は、君たちのことをひどく愛おしく思う反面、逃げたいんだよ」


真っ直ぐに、空色の瞳を見て言った。


「っは、油断、しました…」


汗を流すテツヤが私を睨み見つめてくる。


「…あなたの目は、僕を…愛しいと思っている目でした、から…」


剣を振り払い、剣についた血を落とす。
地面には、綺麗に弧を描いた血がついた。


「―――確かに、君たちへの愛はあったよ」


「名前…」


真太郎が名前を呼ぶ。
未だ、銃口が私に向いていた。


「……撃つのだよ」


「……私にはもう、避けられる体力がないよ。真太郎」


テツヤが斬った背中の傷のせいで体力が奪われた。
そして、最後の力を使ってテツヤを斬ったし。


「撃つなら、撃ってよ…」


「死なない程度にな」


「心臓を狙って撃ってよ」


もう、疲れたよ。


「心臓は狙わないのだよ」


「――真太郎って、案外ひどいよね」


その瞬間、パンッと銃声の音が響いた。


「……死んでも私は君たちに捕まりたくないよ」


目の前まで銃弾が迫ってくるのが見えた。


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