33
テツヤの剣で切られた頬から血が流れるのを感じた。
「――今回は一筋縄じゃいけないことを分かっているでしょう?」
「分かってるよ。怖いくらいにね」
ぎり、と愛剣を掴みなおす。
「なら、大人しく僕に囚われるのみですよ」
その瞬間、空色が消えた。
目の前にいたはずの空色が消えたのだ。
「っ、どこよっ」
私は、剣を地面にさし自分の周りを囲むように地割れを起こした。
「っ、はあ、はあ…」
ぐいっと、頬をの傷を手のひらで拭う。
手のひらに自分の血が付く。
「血が、」
「名前、」
「!!!!」
すぐ近くで声がした。
振り返っても、テツヤの姿はない。
「なん、で…」
「僕は影です。そして、僕の剣の能力を忘れましたか?」
「どこに、いるの!!」
どこからか声が聞こえる。
だけど、テツヤの姿はどこにもない。
「……ねえ、なぜあなたは逃げたのですか?」
「……何度も答えたけど、君たちの愛が重すぎたから」
ふと、テツヤの匂いがした。
「分かりませんね。あんなにも狂おしいほどに愛していたのに。これだけの愛情がもらえれば幸せでしょう?」
「確かだったのは、幸せではなかったということだよ。テツヤ」
チャリ、と剣の音がした。
「――許されない行為ですね」
耳元で声がした。
「許されない行為…?」
「ええ。僕らに対する許されない行為です。貴女はただ、僕らの愛を受け入れるだけでいいのですよ。返そうとしなくてもいいのです」
その瞬間だった。
テツヤの剣が首に当てられ、後ろから抱きしめられた。
「それだけで、僕らは十分なのですよ」
「……テツヤ、」
「さあ、名前。これであなたの負けですよ。大人しく捕まれば五体満足でこれからは過ごせますよ」
「……そんなことなら、負けない」
遠心力を利用して、後ろにいるテツヤへと剣を向ける。
首に当たっていたテツヤの剣が私の首を切る感触があった。
「……だったら、どうやって僕に勝つんですかね」
テツヤの声がひどく耳に残った。
[*prev] [next#]