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嫌いになりそうな、晴天だった。


「…名前、」


「静音おばあちゃん。行ってくるね」


「いってらっしゃい」


優しく微笑む静音おばあちゃんの笑顔を瞼の裏に焼き付ける。
真っ白のワンピースに、不釣り合いな剣を持つ。


「――――さあ、始まりだ」


私は、もう静音おばあちゃんを振り返ることはせずに前へと歩き出した。


「(さてどうする。このまま歩くか、どこかに隠れるか)」


歩くとなると、彼らに出会う確率は一段と高くなる。
隠れたとしても、見つかるのは確実に時間の問題だ。


「彼らは、また二人組で来るか…それとも一人で…」


二人で来たなら、まず前回のような戦いにはならないだろう。
私が絶対一方的にやられるだけだ。
なぜなら、前回は彼らは本気じゃなかったから。


「あーあ、ほんといい天気だよ」


雲一つない、綺麗な青空だった。


「まるで―――テツヤみたいだね」


ざわわ、と風で気が揺れた。
それと同時に背後に気配がした。


「――貴女にそう思っていただけているなら嬉しい限りですよ」


この空と同じ髪色に、瞳の色の彼の声が聞こえた。


「一人、なの?」


「……それは、教えられません。これは僕たちと名前のゲームですから。教えたら、ずるいでしょう?」


いつもの無表情が告げた。


「そう、それでよくここに私がいるってわかったね」


「――愛ゆえ、ですよ」


そんな台詞に照れたりなどしていられない。
周りにほかにやつらがいないか気を配る。


「そんな力まないでください。大丈夫ですよ、まだいませんから」


「まだ、か…」


「ええ。まだ。なので、僕とのひと時を楽しみませんか?」


キンッ……


剣と剣が交わる音が響いた。


「よく、受け止めました」


「その台詞は、前も聞いた、よっ!!」


剣でテツヤを押し、その瞬間に斬りつける。
相変わらずの影の薄さで見失ってしまいそうだ。


「そうですね、前も言いましたね。すみません、失言です」


でも…と、テツヤが続けた。


スッと、顔のすぐ近くを風が通るのを感じた。


「僕の方が早いです。貴女の剣の師匠は僕ですよ」


頬が切られていて、血が流れるのを感じた。


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