30


私の自由になれる戦いまであと1日。
私は最後の逃走劇のために、しっかりと休養をすることにした。


「名前」


「あ、静音おばあちゃん…」


「大丈夫?最近、よくケガばかりしてくるから」


そういえば、もうこの家ともお別れか。
静音おばあちゃんには、全部を話しておこうかな。


「静音、おばあちゃん…」


「ん?なんだい?」


「私ね、おばあちゃんに話しておきたいことがあるの」


私の真剣な表情を感じ取ったのか、おばあちゃんも真剣になった。


「私を、助けてくれたあの日。私ね、軍から逃げてきたの」


「えっ…!?」


びっくりした声をあげる。
そりゃあ、びっくりするだろう。


「私、軍の人間でね、ずっとずっと軍に囚われてた」


「うん…」


「そして、ちょうどあの日に軍から逃げ出したの」


「そう、だったのね」


さすがに、軍の総帥が追っているとは言えない。


「――行ってしまうのね」


おばあちゃんの言葉に下がっていた顔を上げる。
静音おばあちゃんは、優しく微笑んでいた。


「っ、うん!」


「がんばってきなさい。私はここであなたの帰りをずっと待っているわ」


しわが優しく刻まれた。


「うん、絶対に戻ってくるね!絶対に!」


「ええ。ほら、夕飯が出来たわ。一緒に食べましょう」


スープのいい匂いがする。
この匂いが明日からかげなくなるのがひどく嫌になった。


「――名前の明日がきっといい日になりますように」


私もそう思ってるよ。
もう少し、こんな幸せな時間が続けばいいと思った。


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