29
目の前で地面に座り込む愛しい愛しい名前。
敦に撃たれた右腹を抑える手には大量の血が付着している。
「今日から3日間を名前にあげる」
名前は、僕をにらみながら黙って話を聞く。
「その3日間は、名前の自由だ。どこに行ったって何をしたっていい」
「っ、はあ」
息が苦しいのか、肩で息をしている。
顔に汗を流す名前が、僕を興奮させる。
「でも、この街から出てはいけない。出たら君の負けだ」
「負、けないっ」
「そうそう。それくらい粋がらなきゃ。3日後、僕ら全員で名前を捕まえに行く。2日だ。2日で僕らが名前を捕まえられなかったら君の勝ち。名前はもう自由だ。何をしたっていい」
「っ!」
「でも、捕まったら名前の負けだ。一生僕たちの傍にいてもらう。2度と外の空気を吸えないものだと思え」
「逃げ切って見せる…!!絶対に…!!」
力強い目。
この短い間でそんな目をするようになったのか。
やっぱり、名前は外の世界にいてはだめだ。
従順になってもらわなきゃ。
まあ、大輝あたりは反抗してくれたほうがいいって思っているかもしれないがな。
「さあ、このゲームに参加する?」
僕がそう言うと、今まで真っ向から睨み付けていた名前が視線を逸らした。
「……やる、よ」
「本当にやるのかい?捕まったら最後だよ」
「それでも、微かな希望があるならやる」
名前の瞳は光が差していた。
…そんな目を僕に向けるな。
「ほんとに馬鹿な名前。その選択をいつか後悔するといい」
名前に背中を向ける。
杖をトンッと地面についた。
「その時の君の絶望した表情が楽しみで仕方ないよ」
「そうだねー。俺も楽しみかなー」
僕はもう一度、杖を一叩きして、この場を去った。
「大っ嫌い、」
そんな言葉を名前は僕らに投げかけた気がした。
まあ、どうせ幻聴だ。
名前は絶対に逃げられないのだからな。
「ああ、もう愉快すぎるな」
さあ、この後の逃走劇にどうやって終止符を打とうか。
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