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全ての偶然が、彼の手によって必然へと変わる。


「……なんで、逃がしてくれないの」


目の前にいる征十郎に声をかけた。
自分でもあまりの怖さに震えているのがわかる。


「…お前は、僕が拾ってきたものだよ?そうやすやすと逃がすはずないだろう」


「勝手に連れて行ったくせに」


「こんな汚い世界にいた間で、名前は変わったらしいね」


じりっと征十郎が近づいてきた。
剣を持っている手に力を込める。


「名前ちーん、戻っておいでー。今ならみんな許してくれるよー?」


敦が首を傾げながら言った。
許す?
そんなこと、求めていない。


「…名前?」


一歩ずつ征十郎が近づいてくる。
私は、剣に力を込め、征十郎に切っ先を向ける。


「―それ以上、近づかないで」


目の前に剣の先があるというのに、征十郎はびくりともしない。


「…くく、ははははは」


「!?な、なに」


いきなり笑い始める征十郎。


「――…馬鹿にするな、名前」


低い声にびくりとした。
冷たい目に、冷や汗が流れる。


「僕らが本気になれば、君くらい簡単に捕まえられるんだよ」


「っ!?」


「君が逃げるのをかわいらしいと思って見逃していたが、ここまで来ると名前が愚かで笑えてくるよ」


「な、んだと…!?」


よく考えてみろ、確かに征十郎の言ったとおりだ。
幹部である彼らから逃げれたなんて手加減されてたか、わざと逃がしたに決まっている。


「ほんとに、名前ちんって馬鹿だねー。でもそんなところが愛らしいと思うよー?」


「そうだな。僕もそう思うよ」


私は剣を握る力を強くする。
うるさいうるさいうるさい。
私はあなたたちから逃げたいから抵抗しているのに。


「……絶対に、嫌だ」


「名前ちん?」


ぼそりと呟いた私に敦が不思議そうに声をかける。


「私は、絶対に嫌だ!!!!!」


ざくっ…


剣を勢いよく地面に突き刺す。
そこから起こった地割れは征十郎たちへと向かう。


「…ねえ、もうもう…解放、してよ」


いつから、あなたたちのことを苦痛と思い始めたのだろうか。


「名前、」


征十郎の声がした。
でも、あなたの声に答えたくない。


「名前、」


遠くで聞こえた声が、耳元で聞こえた。


「愚かで愛しき、名前」


「!?」


振り返ると、征十郎がいた。


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