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「はあっ、はあっ…」


満月が空高く昇り、優しい月明かりがある少女を照らしていた。
その少女は、白いワンピースを着ていた。
だが、そのワンピースはところどころ汚れていて、破れていたりしていた。


「げほっ、…はあ、ふざけてるっ」


少女の手には、一本の刀を持っていた。
それ以外は何も持っていない。
身に着けていなかった。


「みーつけた」


のうのうとした声が当たり一面に広がった。
少女は、刀を強く握り締め、振り返った。


「名前、見つけたよ」


「っ!」


振り返った先の青年の手には、一本の杖が握られていた。
杖以外で武器になるものは、見当たらない。


「大人しく捕まれば、足を切り落とすだけで許してあげるよ?」


青年の表情は、逆光のせいで分からない。
だが、笑っていることだけは分かった。


「…っ、私は、自由になりたくて逃げたっ」


少女の声は、震えてはいたが、芯の篭った声だった。
少女の頬は、誰か分からない人の血がついていて、それに青年は気づく。


「かわいそうな、名前。こんなに汚れてしまって…それは、名前の血?」


少女は、唇を噛みしめるだけで答えなかった。
これが、もし少女の血だったら、彼はすぐさま傷つけたやつを殺しに行くだろう。
もし返り血だったら、この返り血の主を探して、跡形もないほどぐしゃぐしゃにするのだろう。


「……もう、解放、してよ」


一滴、少女の瞳から涙が落ちた。
それが、ひどく綺麗で。
滑稽で、哀れで、愛しかった。


「君を解放するはずない。どこに行こうが、捕まえて閉じ込めてたくさんの愛を与える」


その愛がひどく重いものだった。
もう、嫌だ。
だから逃げ出したのに。


「…だったら、私はここで死ぬ。自分で殺す!!」


少女は、覚悟を決め刀を抜いた。
その瞬間、血飛沫が舞った。


「馬鹿で愚かな名前」


青年が、にやりと笑った。


君はどうせ、手のひらで踊っていただけだった



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