26


『いい?名前。約束、よ。私たちのことは絶対に喋ってはいけないよ。他言無用。私たち一族の秘密なのよ』


ああ、顔も忘れてしまった私のお母様。
もう、声も覚えていない私のお父様。
あなた方は私に何を約束させたのですか。
何を話してはならないのですか。
ねえ、教えてください。


――――――



グサッ…


軍の本部から城下へと結ぶ道は森に覆われていた。
その森の中で、緑に似つかわしくない赤と紫が見えた。


「………どう?赤ちん」


「ああ、なんとなく気配は追えるんだけどな。だが正確な位置までは…」


地面に突き刺さっている杖を抜く。
すると、隣にいた紫原はだらしなく着た上着のポケットからお菓子を取り出し、食べ始めた。


「ふーん。ねえ、他のみんなもう赤ちんの計画気づいているんじゃね?」


「だろうね」


「いいの?」


「いいさ。あいつらはどうせこの計画には賛成のはずだからな」


紫原は、最後の一口を頬張る。


「…まあ、今は名前ちんを探さなきゃねー」


「いや、それはいいよ」


「え?」


「ねえ?名前?」


赤司が口元に笑みを浮かべながら言う。
紫原が不思議に思っていると、彼らの後ろで気配がいた。
紫原は勢いよく振り返る。


「っ!!名前ちん!?」


「敦に…征十朗…」


そこには、薄桃色のワンピースを着た名前が立っていた。
名前は、彼女のかわいらしい姿に不釣り合いな愛剣を握っていた。


「久しぶり、かな?」


綺麗に笑う彼女にどくりと心臓が動いた。


「そうだね。君が逃げてから会えてなかったからね」


「名前ちん、久しぶり〜」


そして、彼女は笑いながら言った。


「私は、もう二度と会いたくなかったよ」





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