24


ずっと平和になんか過ごせるなんて思ってない。


「……いっそのこと、この国から出てしまおうか」


私は、家の近くの野原でねっころがりながら呟いた。
だけど、隣の国に行くためには検問を抜けなければいけない。
きっと征十郎のことだ、根回ししているだろう。


「……もう、ずっと囚われ続けるのかな」


ぎゅうっと私の愛剣を握り締める。
何故か知らないけれど、この剣は私に勇気と安心を与えてくれる大事なものだ。
征十郎がくれたもの。


「ずっと、ずっと…」


大切にしてきたもの。
もう、逃げたいよ。
この剣からも彼からも彼らからも。


『名前、君は僕のだよ』


思い出しただけでも寒気がする。


『君は僕が拾ったんだ。僕のためだけにいろ。僕のためだけに生きろ』


『いや、だっ!!』


『…全く君は、いつになったら僕に従順になるの?』


ぐさり、


『うっわああああああああ!!』


征十朗の剣がももに突き刺さる。
痛い痛い痛い痛い。


『名前、君はさ逃げられないんだよ?』


涙で霞んで、征十朗の顔が見えない。
赤がひどくちらつく。


『どんなに逃げようが追って捕まえる。必ず、ね』


彼の声が頭に響く。
痛い、逃げたい、痛い、逃げたい。
その繰り返しだ。


『捕まえたら二度と逃げ出さないように、閉じ込めるよ。ついでに、逃げようとする足も切ろうか。手も鎖につないでおかないとね』


『あっ…い、やだっ』


『だったら君は賢いはずだから分かるだろう?逃げ出さなければいいんだよ』


それもそれで嫌なのに。


『ここにいれば、どんな敵からも悪からも守ってあげる。僕らから愛もあげる。僕らのすべてをあげるよ』


『っ、はあっ、』


『ねえ?だから、名前。逃げ出そうとするなよ。僕らはどんな手段を使ってでも君を捕まえに行くんだから』


ふざけるな、と言いたかった。
何故彼らは、私をここまでひどく執着するのだ?
そんなことは、もうどうでもいいか。


『でもね、僕もそれなりに楽しくないと嫌なんだ。だから、名前に唯一の抵抗することの出来るものをあげる』


そう言って、征十朗は痛みで泣いている私の顔の目の前に一本の剣を置いた。


『名前に武器をあげる。それで抵抗するといい』


さらり、と汗で濡れた前髪をどかし、額にキスをした。


『――それでも僕らから逃げられないことを証明してあげる』


初めて、征十朗を死神かと思った。
そんな死神は、涙で濡れている目元や血で濡れている剣の刺し傷や腕にキスをする。


『愛してるよ、僕の名前』


愛しそうに細められたオッドアイを見て私は気を失ったのだった。


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