19


目の前に広がる光景に驚くことしか出来ない。


「…忘れてしまっていたのなら心外ですね。僕には、能力を無効化できる」


剣を地面に突き刺しているテツヤ。
そうだ、彼の剣は能力を無効化できる。
だから、テツヤには勝てない。


「そんな、愚かで馬鹿で強気な名前も愛おしいですよ」


にこりと微笑むテツヤに悔しさがこみ上げる。
そういえば、涼太は。


「…っ、まだあそこにいる」


「そうです。名前は、黄瀬くんの能力だけ警戒してればいいんです。僕は対能力者でしか発揮できない能力ですから」


私もその能力者なんだけどね。
さて、どうする。
テツヤを倒すなんて私には無理だ。
毒の回った身体で幹部二人を倒すなんて事がそもそも不可能だ。
ただ、私は逃げれる隙だけでも作ればいい。
倒さなくていい。


「…名前、一つ忠告を」


「何…」


「黄瀬くんは、青峰くんのように暴走すると厄介です。さて、では彼の『きっかけ』は何でしょうね」


「は?」


テツヤの忠告の意味がわからない。
涼太が暴走?
大輝並に?
考えられない。
そんな姿一度も…


「!」


「気づいたようですね。あなたは、戦場に一度も出たことがないから分かんないでしょうが、黄瀬くんは厄介ですよ」


まずい。
涼太は、自分の身体に傷がつくことを嫌う。
大輝は、ただ血を見ると興奮するってだけだ。
だとしたら…


ドドドドドドドドッ


「何!?地面が割れる音!?」


それは、私の元へ向かっていた。


「なっ!!!」


私は慌てて、また地面に剣を突き刺す。
私の地割れと向かってくる地割れが相対する。


「…まさかっ」


砂埃が晴れて見えたのは、軍服がところどころ切れていて、頬から血を流し冷たい瞳で私を見る涼太の姿だった。


「…あーあ、もう。俺のこんな姿名前っちに見せたくなかったんスけどね」


ざくっと普段は使わない涼太の剣が地面から引き抜かれる。
今のは、確実に私の能力だ。


「涼、太…」


「あは、毒が脳にまで回ってきて苦しいっスか?でも、だーめ」


私は、地面に膝をつき、剣という支えがないと今にも倒れそうな状態だ。


「簡単に気絶なんかさせてあーげないっ」


涼太は、いつの間にか近づいてきて私の死角にいた。
くそ、真太郎の能力か。
テツヤは、傍観を決め込んでるようだ。


「だから、存分に苦しんでくださいっス」


涼太のその一言が悪魔の囁きに聞こえた。



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