15


私は、大輝達から逃げ、買い物済まし静音おばあちゃんの待つ家に向かった。
未だに、心臓の音がうるさい。


「…本当に動揺しすぎてたんだな」


だって、真太郎の能力も忘れるくらいだ。
大輝の言ってたことは当たってた。


「まさか、他人の剣でも能力が使えるなんて」


それに関しては、新たな収穫だ。
それでも、攻撃力は通常の半分以下だったけど。


「ただいまー静音おばあちゃん」


「おかえり」


帰るといつもの優しい笑顔で出迎えてくれた。


「うん。はいこれ頼まれたもの」


「ありがとうね。じゃあ、もう夕飯にするから着替えておいで」


「うん!」


もう少しだけ、この家に居てもいいかな。
もう少しだけ、幸せな時間を過ごしてもいいかな。


「…忘れちゃいけない。私は軍の元幹部だ。そして逃亡者」


ベッドの隣に置いてある剣を握る。


「ごめん、幸せボケしてたよ。忘れててごめん」


愛剣が泣いている気がした。
私があの人から初めてもらった武器。
与えられた武器。


「…それでも、軍にいた頃のことは大切な時間だった」


いろいろあったけど、私の人生で一番充実していた。


「だから、もう…」


次来るのは、誰だろう。
私を追いかけてくるのは誰だろう。


「捕まってなんかあげない。絶対に」


私は、薄いピンク色のワンピースに着替えて、夕食を作っているだろう静音おばあちゃんの元へ向かった。


‐‐‐‐‐‐


黒子と黄瀬が出て行った元帥の部屋。
そこには、赤司と紫原がいた。


「…ねえ、敦」


「なーに?赤ちん」


「名前のこと調べてきてくれる?」


「どーして?」


赤司は、未だ陛下が不破名前を捕まえて来いと命令された理由が分からなかった。


「彼女の能力と言い、偶然が重なりすぎなんだよね」


「…?分かったー調べるー」


「ああ。よろしくね」


出て行く紫原を見送り、椅子に座る。
偶然―赤司が名前を気に入り、その名前に幹部のような能力があること。
そして…


「名前は、神様に愛されている」


天候も偶然も運も何もかもを味方にしている。


「まあ、さすが僕が気に入った子だな」


面白さ目的で連れてきた少女が今ではこんなに愛しく思えるなんて。
嬉しい大誤算だ。




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