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がちゃり、と足を踏み込んだ部屋には、甘ったるい空気が流れていた。


「…お前は、またか」


「あれ、青峰っちと緑間っちじゃないっスか。名前っち探しはどうだったんスかー?」


その部屋には一つのベッドがある。
その上では、黄瀬がどこかで引っ掛けてきたらしい女と淫らな行為をしていた。
この匂いもそのせいであった。


「…それで、最近は治まったかと思ってたけど」


「あは、だって名前っちがいないんスもん。しょうがないでしょー?」


青峰は、黄瀬に近づいていき女の顔を見る。


「って、お前。こいつ死んでんじゃねーか!」


よく考えたら、この部屋に入ってきたときから女の声がしなかった。


「だって、この女、顔が微かに名前っちに似てるんスけど、声が全然似てなくて。それで、イラついて首絞めながらヤってたら…死んじゃったっス」


「おい黄瀬、後始末をする身にもなるのだよ」


「ごめんっス。まあ、これも名前っちのせいっスね」


「…と言っても、名前とはヤったことねーだろ」


「それは、青峰っちもでしょー?っていうか、『キスはいいけどそれ以上はだめ』。それが暗黙の了解だったじゃないっスか」


「…まーな」


黄瀬は、出し終わったのか、女から離れ軍服を整える。
そして、青峰の顔に傷がついてるのに気づいた。


「あれ、青峰っちその傷…、珍しいっスね。青峰っちが傷作るなんて」


「ん?ああ、だってこれ、名前に付けられた傷だしな」


「え、名前…?っ!!!名前っちに会ったんスか!?」


青峰の口から出た名前と言う言葉に、黄瀬が反応した。


「そうだよ。まあ、逃げられたけどな」


「えーいーなー!!名前っちに傷つけられるとか羨ましいっス!」


青峰は、恍惚な笑みを浮かべ傷口に触れる。
彼らは、名前から与えられるものなら何でも嬉しいと思っている。
傷も愛情も言葉も憎しみも、何でも。


「俺も、早く外に出たいっスー!!もう、赤司っちに言おうかな」


「黄瀬には、名前を捕まえられないと思うのだよ」


「もう、何スか緑間っち!捕まえられなかったって何俺に当たってるんスか!」


黄瀬は、整っている顔を膨らまし、子供染みた表情をとる。


「ま、それでも名前っちは俺のだし。捕まえたら何しよっかなー。まずはー足の骨を折ってー首輪させてー鎖で繋いでー…もう、二度と太陽なんて見せないようにするんスー」


そう言いながら部屋を出て行く黄瀬に、女の後始末をどうするのかと怒鳴る緑間。
青峰は未だ、傷口に触れていた。


「……こうなるんだったら、さっさとヤって俺のものにするんだったぜ」


もう、悔やんでも遅いけど。



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