11
がちゃり、と足を踏み込んだ部屋には、甘ったるい空気が流れていた。
「…お前は、またか」
「あれ、青峰っちと緑間っちじゃないっスか。名前っち探しはどうだったんスかー?」
その部屋には一つのベッドがある。
その上では、黄瀬がどこかで引っ掛けてきたらしい女と淫らな行為をしていた。
この匂いもそのせいであった。
「…それで、最近は治まったかと思ってたけど」
「あは、だって名前っちがいないんスもん。しょうがないでしょー?」
青峰は、黄瀬に近づいていき女の顔を見る。
「って、お前。こいつ死んでんじゃねーか!」
よく考えたら、この部屋に入ってきたときから女の声がしなかった。
「だって、この女、顔が微かに名前っちに似てるんスけど、声が全然似てなくて。それで、イラついて首絞めながらヤってたら…死んじゃったっス」
「おい黄瀬、後始末をする身にもなるのだよ」
「ごめんっス。まあ、これも名前っちのせいっスね」
「…と言っても、名前とはヤったことねーだろ」
「それは、青峰っちもでしょー?っていうか、『キスはいいけどそれ以上はだめ』。それが暗黙の了解だったじゃないっスか」
「…まーな」
黄瀬は、出し終わったのか、女から離れ軍服を整える。
そして、青峰の顔に傷がついてるのに気づいた。
「あれ、青峰っちその傷…、珍しいっスね。青峰っちが傷作るなんて」
「ん?ああ、だってこれ、名前に付けられた傷だしな」
「え、名前…?っ!!!名前っちに会ったんスか!?」
青峰の口から出た名前と言う言葉に、黄瀬が反応した。
「そうだよ。まあ、逃げられたけどな」
「えーいーなー!!名前っちに傷つけられるとか羨ましいっス!」
青峰は、恍惚な笑みを浮かべ傷口に触れる。
彼らは、名前から与えられるものなら何でも嬉しいと思っている。
傷も愛情も言葉も憎しみも、何でも。
「俺も、早く外に出たいっスー!!もう、赤司っちに言おうかな」
「黄瀬には、名前を捕まえられないと思うのだよ」
「もう、何スか緑間っち!捕まえられなかったって何俺に当たってるんスか!」
黄瀬は、整っている顔を膨らまし、子供染みた表情をとる。
「ま、それでも名前っちは俺のだし。捕まえたら何しよっかなー。まずはー足の骨を折ってー首輪させてー鎖で繋いでー…もう、二度と太陽なんて見せないようにするんスー」
そう言いながら部屋を出て行く黄瀬に、女の後始末をどうするのかと怒鳴る緑間。
青峰は未だ、傷口に触れていた。
「……こうなるんだったら、さっさとヤって俺のものにするんだったぜ」
もう、悔やんでも遅いけど。
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