10
「さ、逃げられないぜ?――名前」
さあ、どうする。
「撃ってみなさいよ」
「は?」
「殺すなら、殺せ。どうせあそこに戻ったところで私は、死んだも同然よ」
こめかみに当たっている銃が、強く当てられる。
「怒るぜ?名前」
冷たい声だった。
目の前にいる真太郎も冷たい目をしている。
「死姦は、趣味じゃねーよ」
「死体を愛でる趣味などないが、名前なら、まあ」
「だったら、どうするの。連れて行く気?それこそ、簡単じゃないはずよ」
私は、剣を地面に勢いよく突き刺した。
「は、何してん…」
「!!!青峰、離れるのだよ!」
目を見開いて焦る、真太郎。
その言葉に気づき、慌てて離れる大輝。
「大輝こそ、焦ってたんじゃない?私の能力を忘れるなんてね」
「!!!!」
地面が、剣を突き刺したところから割れ始める。
それは、二人をめがけて地割れを起こす。
「…まさか、俺の剣でも出来るとはな」
「私も驚いた。はじめてやるもん」
私の能力は、地面を操ることが出来る。
ただし、特注の剣でなければできない。
その剣は、私の力を地面に伝えやすくなっているのだ。
「…油断してたぜ」
ぽたり、とさっきの傷がまだ癒えていない頬から血が滴り落ちた。
だが、それを拭うこともしない。
「…私は、逃げ続ける。ずっとね。捕まるときは…」
私は、言葉の続きを言わずに口を閉じる。
そして、二人ににこりと笑った。
「じゃーね。征十郎や、みんなによろしく言っといて」
その場から、私は逃げたのだった。
‐‐‐‐‐‐
「ふふふ」
一人、窓から外の景色を眺めている青年がいた。
「絶対、逃がさないよ。名前」
その瞳には、何が写っているのか。
青年は、悪戯な笑みを浮かべるだけだった。
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