赤司様と呼ばれた少年は、私を痛いくらいに抱きしめて「姫様」と叫び続ける。
「…赤司くん!!」
「どうしたんだよ、赤司!」
抱きしめている彼と同じように舞台に上がっていた人たちが駆け寄ってきた。
そして、彼らも私の顔を見て目を見開いた。
「…、名前っ」
空色の髪の少年が私の名前を呟いた。
「やっと、やっと逢えたのか…」
「随分と俺らを放置しすぎなのだよ…」
「名前ちんー」
彼らは、次々と言葉を紡ぎだす。
…私、この人たちに会ったことないんだけど。
「……すみません、貴方達どなたでしょうか」
1日のうちに同じセリフを2度も言うなんて思っていなかった。
その瞬間、私を抱きしめていた赤髪の彼が、勢いよく顔を上げる。
「え、知らないの?」
「…知らないも何も…私たち、初対面ですよね?」
彼の表情が絶望の表情になった。
でも彼はすぐに表情を変える。
「…ほんとに知らないみたいだね」
彼は、綺麗な瞳を伏せた。
「…名前、知らないんですか…、忘れてしまったんですか。あんなに、あんなに…っ!!」
「テツヤ」
空色の少年の言葉を冷静な声音で赤髪の少年は止めた。
「…だめだよ、テツヤ。僕らの存在意義を忘れたのかい?」
「…っ、すみません。取り乱しました」
色とりどりの髪色の彼らは、くしゃりと顔を歪ませている。
「ほんとに、すみません。…それよりも儀式は…」
「ああ、儀式…そんなものは、いいよ。君が現れたんだから」
優しく頬を撫でる指先に少しだけ懐かしさを感じた。
「ねえ、姫様。君は、群青の珠を持ってるでしょ?」
拒否を許さない、彼の言葉にうなずき私は首元から紐に繋がれた綺麗な群青色の珠を取り出す。
「これが、証拠だよ。君が姫様であるという…松奏院家の後継者であるという証拠」
彼が言った瞬間、周りの人々が騒ぎ始めた。
さつきちゃんも高尾くんも火神くんも桜井くんも驚きの声をあげている。
「…、待ってください。私は、松奏院という名字ではありません。私は、橘です」
「“橘”?…どうして」
彼は、一瞬考えてから口に弧を描いた。
その笑みに鳥肌が立った。
「ふーん。そういうこと。だけど、だめだよ」
彼は立ち上がり、私を無理やり立ち上がらせた。
「君はもう、僕らのものなんだから」
彼は、そう言って瞳の色を濃くさせた。
その眼を見てるとなんだか眠くなってきた。
「――おやすみ、姫様」
最後に聞こえた言葉がひどく耳の奥に残った。