崇められる存在

ねえ、覚えてるかい?
この桜を。
ねえ、覚えてるかい?
この風景を。
ねえ、覚えてるかい?
君の笑顔を。


*************


「…ついたー!!」


「綺麗ー!」


綺麗に咲き誇る桜。
感動した。
周りを見てみると結構な数の村人が来ている。
その中で、一際目立つ集団を見つけた。
髪の色がカラフルで目立っているし。
しかも周りの人たちは、そのカラフル集団が通る道を作っていて頭を下げている。


「さつきちゃん、あの人たちは?」


「ん?ああ、松奏院の仕える人たちだよ」


「松奏院ってあの?」


「うん。あの人たちは、能力を持っているしね」


「能力!?」


「そうだよ。というか松奏院家は能力を持つ一族だしね。だからこの村で権力を持って入れるんだよ」


「そうなんだー」


松奏院家はすごいなー。
それにしても、彼らを崇めすぎじゃないか?


「こんなの序の口だよ。彼らは松奏院家に仕えるものだから崇められるのは当然だけど、本当の松奏院家の人が来たらもっとすごいよ」


「松奏院家、すごいね」


「当たり前だよ、名前ちゃん。松奏院家がいなければ私たち村人はこの村で生きてなんていけないから」


「…?どういうこと?」


「あは、名前ちゃんは知らなくていいよ」


さつきちゃんは私の頭をなでた。
そして、いつの間にかいなくなった高尾くんたちを探すことにした。


――『桜籠りまつり』が始まるまで1時間――



「…今年も綺麗に咲いたな」


赤髪の少年が桜を見上げる。


「そうですね、毎年この日が一番綺麗に咲き誇ってると思います」


空色の髪の彼が答えた。


「おい、黄瀬ー。何、きょろきょろしてんだよ!」


「だって、青峰っち…!こんなに人が集まってるんスよ!?」


「お前ら、うるさいのだよ。松奏院家の懐刀としての自覚がないのか!?そして、紫原、お菓子食うのはもうやめるのだよ!」


「えー」


後ろでは、がやがやと騒いでいる。


「お前らうるさいぞ、これから大事な儀式が始まるんだから静かに出来ないのか」


ジャキッと鋏を懐から出す。
すると後ろの4人は一気に静かになった。


「……名前」


桜を見てぽつりと呟く空色の少年。


「名前、」


桜からふと、集まっている村人のほうへ視線を向けると、綺麗な黒髪が桃色の髪と一緒に揺れてるのが見えた。
まさか…!!
と思い、目をこすって見るともう姿が見えなくなっていた。


「どうしたんだい?テツヤ」


「…いやちょっと。願望を見すぎてしまったようです」


「そうか。まあ…僕らにここまで迷惑をかけてるんだ。見つけたらたっぷりとお仕置きをしてやろう」


そう言って哀しく笑う彼にテツヤと呼ばれた少年は、苦笑いで返した。
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