妬み怨み憧れ葛藤

あの日、外の世界に出て行ったお前が羨ましかった。
名前とあんなに笑うお前が羨ましかった。


全て、全てお前のせいだ。


ずっとずっと、一緒に一生をあの牢屋で過ごすと思っていた。
なのに、お前は裏切ってさっさと外の世界に飛び出していった。


そんなお前がずっと嫌いだった。


ーーーーーー


名前が黄瀬に殺されたと聞いてから1000年以上が経った。
その殺した張本人と殺された張本人が目の前にいる。
一人は、相変わらずの憎らしい金髪で、もう一人は、俺のことを忘れてしまっているであろう松奏院家の姫君。
辰也様の妹姫。


「…何言ってるんスか?花宮っち…」


「ずっとずっとお前が嫌いだったと言ってんだよ」


あの日から、ずっと。
名前が地下牢に入り込んで黄瀬を見つけてからずっと。


「……花宮、さんでしたっけ」


松奏院家の従者の家の黒子が口を開いた。


「…黒子家の一人息子の黒子テツヤか」


「なんで、あなたが『そちら』にいるのですか」


信じられないという瞳をしている。


「しかもさー、あの死者の家の木吉家の鉄平もいるしー」


…紫原家の次男坊の敦か。
たしか紫原家は、昔から木吉家と仲が悪かった。


「…テツヤに敦、しってるの?」


名前が二人に声をかけた。


「知ってます。というか、みんな知ってるはずです。…最初は、分からなかったですよ、木吉さん」


「だって、お前、姫さんで頭の中いっぱいだったしな」


木吉が大きく笑う。


「……通りで紛失したと言われていた『毘沙門道真』を持っていた訳か」


赤司が、ぽつりと呟いた。
『毘沙門道真』とは、俺の持っている刀の名前だ。


「でも、どうして君が名前の血で造られた珠を持っているんだい?」


赤司の言葉にみんなが俺の持っている刀に視線を向ける。
名前の瞳が見開いている。
そんな瞳も大好きだよ、名前。


「…赤司、だっけ?そりゃ当たり前だろ。名前にもらったんだよ」


「はあ?」


「名前がこの俺にくれたんだよ」


にやりと笑ってみせた。


「…それで、名前覚えているのか?」


「…真太郎、」


「名前?」


名前の瞳が群青に染まった。

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