「太陽みたいだね」―参


あれから毎日のように名前っちは俺に逢いに来る。
俺だけのために。
名前っちはこの季節感も分からないような地下牢のために季節に合ったものを持ってきてくれるようになった。
今日は、落ち葉だ。


『もう、秋も終わりっスか。早いっスね』


『そうだね。そういえば、涼太に相談があるの』


いつもよりも真剣な顔で言う名前っちに首をかしげながら先を促した。


『…―ねえ、この牢から逃げたくない?』


『は?』


名前っちの口からは信じられないような言葉が出て来た。


『私は、涼太がこの牢に留まっているのを見ていられないよ。私が力を貸すから。お願い、逃げて。そして外の世界で幸せになって』


『名前っち…』


なんで、そんな泣きそうな顔をしているんスか。
なんで、俺のために。


『いいっスよ。俺、逃げたい。こんな世界から逃げたい』


『うん、いいよ。手伝ってあげる。私が助けてあげる』


名前っちは右手を俺に向けてきた。
俺はその手に右手を乗せる。
ああ、なんて暖かくて柔らかい手だろう。
俺の手とは大違いだ。


『……ねえ、名前っち。名前っちの願いってある?』


『急に、何、涼太』


『いいじゃないっスかー。答えて欲しいっス』


『えー…そうだなー』


名前っちは、哀しそうに目を伏せて言った。


『……もう、叶わない夢だけど、松奏院の子だから持っているけど、力なんて欲しくなかった。平凡でいたかった。こんな高そうな着物も髪飾りも何もかも要らない。私は、普通になりたい…』


『…』


『ああ、あと欲を言うなら、私の従者達を私から解放してあげたいかな』


『…解放、スか?』


『うん。あの子たちには、ひどいことをしちゃったよ。だって、魂を永遠に私に縛ってしまったからね』


俺は、素直に羨ましいと思った。
ずるいと思った。


『永遠に私から離れなくなってしまった…』


名前っちは、首にぶら下がった綺麗な群青の珠を握り締めながら言った。


『もう、遅いんだけどね…何もかも』


憂いを含んだ瞳が群青の珠へと向かう。


『…後悔、してるんスか?』


『…後悔、か…してないって言ったら嘘になるけど…私はそんなこと言える立場じゃないから』


そんな哀しそうな顔をしないで。
俺がその不安を解消してあげる。
その願いを叶えてあげる。
ねえ、愛しい愛しい俺の名前っち。
俺の世界を色づけてくれた人。

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