「太陽みたいだね」―弐


あれから、六年という長い年月が経った。
俺は幸いこの通り、生きている。
目の前にいる花宮っちもだ。
実験もした。
その結果、俺らは特別な遺伝子を持っているらしい。
憎たらしい純白の着物を着た人たちが喜んでいた。


ああ、いつも同じ景色。
同じ匂い。
同じ空間。
同じ日常。
俺はもう、全てに諦めていた。
太陽をもうどれくらいの間見ていないのだろうか。
待っているのは、絶望だけなのだから、今更太陽が見たいなんて思わない。
もう、夢を見るのも希望を願うのにも疲れたよ。


――そして、その絶望だらけの日常が変わる出来事が起きた。


『うわっ』


ごろごろごろ…どてんっ


『いたっ!!!』


俺の目の前に転げ落ちてきたのは、小奇麗な桜色の着物を着た俺と同い年くらいの少女だった。


『いたたた…ってあれ?ここどこ?』


漆黒の髪に漆黒の瞳。
綺麗だと思った。


『……あ、』


その少女と眼が合ってしまった。


『わあ、君の髪、太陽みたいだね』


全てはその瞬間からだった。
その瞬間から、俺の世界は色づき始めたのだ。


『ああ!ごめんなさい!君の名前は?私はね、松奏院名前っていうの』


ふわりと笑う少女は、俺の憎き松奏院家の一人娘だった。
少女は、俺の近くへと寄ってきた。


『…それよりもひどい…家にこんなところがあるなんて…』


…この少女は、人体実験をしてるという事実を知らない?
ああ、だったら知らないままのほうがいい。
こんな綺麗な少女をわざわざ闇に染めるようなことはできない。


『…俺は、黄瀬涼太』


『黄瀬、涼太ね。ほんと、綺麗な髪ね』


少女は、俺のこの髪を太陽のようだと何度も言った。
その度に俺の絶望が段々と色づく。
だから、君のほうが太陽のようだと思った。


『…ねえ、涼太。また来てもいい?母様や父様、従者には内緒で来るから』


『いいっスよ。名前っちがいるだけで嬉しいっス』


『ありがとう、じゃあまたね』


『はいっス!』


俺は、名前っちの姿をずっと見つめていた。
名前っちから桜の匂いがしたから今は春なのだろうか。


『名前っち…』


君のおかげで俺の世界が色づき始めた。
ずっとずっと、話していたい。

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