狂わされた表情





「私、――あの日、涼太に殺されたんだ――」




静まり返った庭にあるのは、にこやかに笑う涼太の顔。
それだけが私の視界に入った。


「っ、は?姫様を殺したのは、涼太…?」


「そうっスよ、赤司っち」


「…黄瀬くん、もう嘘はいいです。止めてください。頭が追いつきません」


「何言ってるんスか、黒子っち!全て現実っスよ。俺が、黒子っちたちを騙していたことも裏切ったことも、名前っちの記憶を盗ったことも、そして…名前っちをこの手でころしたことも全部」


あの、いつもの笑みで淡々と言う涼太。
その言葉に全てが現実だと知らされる。


「っ、てめ、涼太っ」


征十郎が瞳孔を開きながら、刀を構える。


「よくも、よくも姫様をっ!!!」


「あはは、止めてくださいっス。赤司っち」


そして、涼太の声と思えないほどの低い声が聞こえた。


「そーゆーのがうざいんだよ」


「!」


「何、自分だけが特別だと思ってるんスか?赤司っちもみんなも特別じゃないんスよ。特別なのは俺だけっスよ」


笑いながら言う涼太はもう昔の涼太ではない。


「俺だけが、俺だけが名前っちの特別なんスよ」


……やめて、もうやめて。
私をこれ以上壊さないで。


「だって、俺が名前っちを壊したんスもん」


ああ、私はもう壊れていたのか。
あの日、涼太に殺された日に私は壊れたのか。


「涼太、名前が混乱してるから黙りなさい」


「すんませんっス、氷室っち」


今日は、厄日なのだろうか。
嫌な現実を知らされて。
ああ、もう嫌だよ。


「ねえ、名前っち、思い出してくれた?俺との想い出」


「…嫌だよ、嫌だ。思い出したくないよ、涼太」


――ああ、俺と名前っちだけの大切な思い出。
綺麗で、愛しくて、残酷な、そんな思い出。


何で拒むの?
そんな大切な、大切な思い出を。



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