「…名前っち、ねえ、思い出したいっスよね?」
嫌だ、嫌だ。
思い出したくない。
「だって、俺が名前っちの記憶を盗ったんスもん」
「……え?」
にっこりと笑う涼太に私は、目を見開いた。
涼太が盗った?
私が望んで記憶を失くしたんではなく?
『大好きっスよ、名前っち』
『え、俺が従者に?』
『あー、名前っち!また来てくれたんスね!』
『名前っちー』
痛い、痛いいたいいたい…
「……名前?」
テツヤの声が聞こえた。
「…花宮、真…」
「っ、名前」
青年の口から私の名前が零れた。
「やだ、いやだっ」
「名前っ!!!」
テツヤの声が遠い。
「姫様っ!!!」
征十郎の声も遠い。
何もかもが遠い。
ああ、そうだよ。
そうだよ、私…
『さよならを言いにきました』
『…急に改まってどうしたの?――涼太』
なんで血塗られた涼太の刀を見たことあるのか、分かった。
「私、――あの日、涼太に殺されたんだ――」
私の言葉に周りが静かになった。
当の本人は、正解とでも言いたそうににこやかに笑っていた。
あの、いつもの人懐っこい笑みで。
『……ねえ、何で俺じゃだめなんスか』