…辰也くんが私の兄?
そんなはずがない。
だって私はずっと一人娘として育てられてきたのに。
だけど、否定できない自分がいた。
「…名前、おいで」
辰也くんが私の名前を呼んだ。
さあ、目を覚ませ名前。
「…だ」
「え?」
「嫌だ、私は征十郎たちのもとに戻る」
「っ!」
私は、震えている足に力を入れてみんなの下へと走り出した。
「名前っ!」
辰也くんの手が伸びてくるのが分かった。
届け、みんなの下へ。
もう一歩だ。
「…おかえりっス、名前っち」
ぎゅうと暖かな温もりに包まれた。
ああ、この匂いは…
「涼太」
「よくがんばりました。おかえりっス」
優しい手つきで私の頭をなでる涼太。
ああ、懐かしい。
「よくがんばったのだよ」
真太郎の左手が私の頭を撫でた。
「ただいま」
なんでか、涙が出ていた。
「心配したよ、姫様」
「征十郎…」
「お仕置きは、家に帰ってからな」
「は、はい…」
怖い…
「…ふーん。名前は、唯一の肉親の俺から離れるんだね」
「っ、辰也くん」
「たった一人の兄の下から」
辰也くんは哀しそうに笑った。
その顔に私は心を痛める。
「ごめん、辰也くん。私…」
「…そんな馬鹿で、愚かで愛しい妹の名前に現実を突きつけてあげるよ」
辰也くんは、ぱちんと指を鳴らす。
そこに出て来たのは、青紫色の刀を片手に持っている青年が出て来た。
その青紫色の刀には白色の珠がついていた。
あれ、見たことがあるような…
「…裏切り者がいるんだよ」
「え?」
「ねえ?……卑しき少年よ」
その瞬間、私の目の前が真っ赤に染まった。
ザシュッ…
肉が切れる音がした。
そこには、真っ赤な返り血を浴びて真っ赤に染まっている刀を手にした無表情の涼太の姿だった。