それは、綺麗な桜が咲いた日だったとあとから聞いた。
そんな春に私は、太古から続く松奏院家の一人娘として生を受けた。
今の松奏院家は、私のお母様とお父様がここまで大きくしたらしい。
『名前様ー!』
使用人の呼ぶ声がする。
『ちょ、名前いいのか?こんなとこにいて』
『いいんだよ!お父様とお母様を説得させるにはこの位しなきゃ!』
私の隣にいて一緒に縁側の下の隙間に隠れている真太郎を巻き込んでの騒動だった。
真太郎は、ほんの一週間前に私の従者になった子だ。
私と同じ八つ。
だけど、とても優秀なやつだ。
『…まったく、俺のためにこんなことまでしなくても…』
『何言ってるの!?真太郎はもう私の従者なんだから文句を言わない!真太郎のことを認めてくれないお父様とお母様が悪いんだから!』
『……そうか』
ふと隣にいる真太郎を見ると顔を赤らめているのがわかった。
『あれ?照れてるの?』
『っ!何を言っているのだよ!そんなわけないのだよ!!!』
あはは、照れちゃってかわいー。
『見つけましたよ、名前様!』
真太郎の声が大きかったのか、目の前には使用人がいた。
見つかっちゃった。
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『真太郎は、すごい優秀な子なんだよ!?』
『…名前、わがままを言うんではありません』
目の前にいるお母さんはため息をつきながらいった。
私の家は、余所者がとても嫌いだ。
由緒正しいものしか受け入れない。
『大輝のときは、すぐに了承してくれたじゃん!』
『それとこれとは、別問題だよ』
『お父様…』
『大輝くんは、すぐに名前から授かった力をモノにしたからね。それに比べて…真太郎くんだっけ?その子は、名前との相性はよくなかったんだろう?』
お父様の言葉に真太郎はばつが悪そうに視線を下げた。
『それでも、私の従者だもん!真太郎は、私のものだもん!』
『名前、これ以上父さんを怒らせないでくれ』
真太郎の何が悪いって言うんだ!
なんで、どうして認めてくれないんだ!
『お父様なんてだいっ嫌い!!』
私は、部屋を飛び出しそのまま屋敷も飛び出した。
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『ううっ、ひっく…お父様の分からず屋ー』
どれくらい走っただろうか。
私はいつの間にか知らない道へときていた。
『…ここどこ?』
ふと周りを見渡すと、大きな桜の木があった。
あれは、もしかして私がいつも屋敷から見ている桜ではないか。
止まらない涙を流しながら、桜の元へとむかった。
桜にしか目が行かなかったのが悪かったのかも知れない。
『――あれ?迷子?』
『……へ?』
目線を右に向けると、そこには綺麗な漆黒の髪の少年がいた。