「んっ…」
私は、ふと柔らかい物の上にいることに気づき目を開けた。
「ん?ああ、名前起きた?」
すぐ傍には、豪華な着物に身を包んだ氷室さんがいた。
「なっ!!??」
「落ち着いて、名前。ここは、俺の屋敷だよ」
ふと、周りを見ると松奏院家よりも豪華な部屋が広がっていた。
そして、庭も広い。
「…氷室さん」
「んー。俺のことは氷室さんじゃなくて、辰也って呼んでよ」
「辰也、さん」
「んー…まあ、不満はあるけどしょうがないか」
私は、氷室さんをにらみつけた。
「…っ、よくもテツヤを!!」
「…テツヤくんのことなんてどうでもいいだろ?」
「どうでもよくないです!!こんなの、ひどい」
「…ひどくないよ。俺は当然のことをしたまでだ」
「当然!?」
「名前」
急に低い声で名前を呼ばれ、身体が固まった。
「ねえ、俺がいるというのに他の男の名前なんて出さないでよ」
辰也さんの細く骨ばった指が私の喉を滑らす。
「……、私と辰也さんの関係ってなんですか?」
「まだ、思い出せてないんだね。いいよ、俺との出逢いの記憶を蘇らせてあげる」
すると辰也さんは瞳を群青色にさせた。
「(群青……私の珠と同じ…)」
そして、私の額と辰也さんの額を合わせた。
「(ああ、昔もこんなことしてもらったことがある…)」
次の瞬間、私は記憶の闇に包み込まれた。
***********
ああ、やっと戻ってきた俺の愛しい愛しい姫君。
「名前…」
今しがた深い眠りに落ちた名前の額に唇を寄せた。
「あー、主もそんな顔するんやね」
「…今吉か。何か用でも?」
「いーや。なんもあらへんで」
「だったらさっさと行け。君には仕事があるだろう?」
「分かっとるよ。でも、一言だけ言わせてもらってもええやろか?」
「なんだい?」
今吉は、薄く眼を開く。
「姫さん、壊さんようにな?」
今吉は言うだけ言って去っていった。
「…分かってるよ、そんなこと」
俺が嫌と言うほどにね。